まぁ、見るからに悲しそうですねえ。
ヒサンそうですねえ。

向こうからうれしい人が歩いてきます。
うれしい人はうれしいからうれしいのです。

二人が鉢合わせます。
かなしい人はうれしい人をみてかなしくなりました。

うれしいひとはかなしい人をみてうれしくなりました。

ふたりは偶然出会ったので、お互いのことを知りません。
うれしいひとはうれしい話をひとしきりしました。

かなしい人はかなしい話をたくさんしました。
うれしい人の話には共感できませんでした。

うれしい人はかなしい人のはなしを、
かなしい人はうれしい人のはなしを、

まるで理解できませんでした。

あ、刃物。
あ、刺さった。
あ、血が出た。
あ、痛そう。
あ、叫び声。

いや、深々と刺さったナイフは抜けるはずもない。
痛そうだし、たぶんしぬ。
かなしいひとは、しねることにうれしく思ったと思う？

かなしいひとはかなしいからかなしいの。
死ぬ間際でも死ぬのはかなしいの。
かなしいから、かなしいの。だからかなしいの。

うれしい人はかなしいひとを踏んづけて歩いて行ってしまいました。
さようなら。またね。

はい、お亡くなり。
幸せって、人を踏み台にして成り立つものじゃない？
たとえば、ボランティアも。
かなしい人がいるから、善意の行動ができる。


そんなもん。

少し考えてみたらいい。
そういうもん。


ちゃお！