森の奥で、ひとりの風変わりな少女と、高校生になったばかりの青年が向かい合っていた。
森の奥で、ひとりの風変わりな少女と、高校生になったばかりの青年が向かい合っていた。
ボクとタツヤが仲良く話しているところを見たら、変に思う人が多いんだ
ボクの容姿は風変わりだし……ボクはタツヤに相応しくないって、そんなことはわかってる
だからボクとタツヤは人目を盗んで、ひっそりとした場所で愛を語らうのが日課なわけだけど……
今日は、逢引が目的じゃあない。タツヤは忘れた振りをしているみたいだけど……今日は、約束の日なんだ
だから……ボクから言い出さなきゃあいけないんだ。タツヤの背を、押してあげなくちゃあいけない
ねえ、ボクたち、こうしてあっていて本当にいいのかな?
え?
何を言っているんだよ。それじゃあまるで、俺たちが会っていちゃあいけないみたいじゃないか
タツヤ、覚えてるはずだよ。やくそくしたよね、高校生になったら、ボクとサヨナラするって……
…………
覚え……てるよ。そうだよな、約束したもんな
ゴメンな、エリに言わせちまって。俺から言い出さなきゃ、いけないことだったよな……
でも俺、エリのいない世界で生きていけるかな?
……大丈夫だよ。タツヤは、ボクなんかがいなくても、ひとりじゃあないもん。ほら、中学から同じだった愛菜って人、クラスが同じなんだよね?
……俺、あの娘のこと、苦手なんだ。エリと違って俺を馬鹿にするし、エリと違って怖いし、エリと違って何を考えてるのかわからないし……
何考えてるのかわからないなんて、当然のことなんだよ。ボクとタツヤが、仲良しさん過ぎたってだけで……
……そう、だよな……
それじゃあ、そろそろ……ね
……ああ、わかった
タツヤの手が……ボクの首に近づいてくる
……愛してるよ、エリ
ボクも……だよ
これが、約束。高校の入学式を終えたら、タツヤの手でボクを絞め殺してくれるって、そういう約束
出会った頃から、いいや、出会う前からこうなることは決まってたんだ
タツヤ、最後にお願いがあるの。ボクの死体は、誰の目にも届かないところに隠してほしいんだ
……ああ、わかったよ
首を絞める手に力が加わって……もう、声も出ないや
…………
ボクのために泣いてくれた、真っ赤に腫れたキミの目が愛おしいよ
…………
…………あれ、まだかな?
ゴキっていう音が、妙に鮮明に耳に響く
傾いた視界のボクを、タツヤが抱き締める
それからゆっくり……ボクは地の上に伏せられて……
……ああ、ボク、もう死んでるんだ
エリ……
おめでとう、タツヤ。タツヤはボクを隠して、それから日常へと帰るんだ
ボクがいなくなったって、誰もわざわざ騒ぎ立てやしないだろう
なぜかいなくなったけど、でも良かったって、そう思われてお終いだ
誰も捜しやしない
あれ、達也くんだ! こんなところで何をしているの?
!
…………
タツヤが大慌てでボクの身体を岩陰に寝かせ、近づかれないよう声の主の元へ歩いていく……
この声は、さっきも話題にあがった愛菜って人の声だ
私ね、ここに来ると落ち着くんだ。達也くんもそうなの?
……そういうのじゃないよ
俺はそろそろ森を出ようと思ってたところなんだけど……一緒に行くか?
うん!
タツヤはボクを隠すより先に森を出たくはなかっただろうけど……こう言えば、彼女を一旦森から引き離せることを知っていたのだろう
愛菜は……たぶん、タツヤのことが好きだ
なんだか、珍しいね! その……達也くんが、そういうこと言ってくれるの
……俺、そんなに冷たく見えるかな?
うん!
…………