国王認定武器屋『サトー修理店』にて。

シャルロ

てんちょー! 配達おわりましたですー!

店長の男

あぁ、ごくろうさま

シャルロ

他にお仕事ありますですかっ!?

店長の男

そうだな……もう配達できる品物はなかったか……

シャルロ

てんちょーが今修理してるのはっ!? 手伝う!?

店長の男

いや、これは魔法剣だから……シャルロにはちょっと難しい。魔法が暴発したら危ないし

シャルロ

そんなことないですっ!

店長の男

あるだろう……

シャルロ

そんなばかな

店長の男

炎属性の魔法剣を暴発させて、あそこの天井を焦がしたのは誰だったかな……?

シャルロ

えっ、シャルロですよ? てんちょーってば忘れちゃったんですかプププ

店長の男

………………

シャルロ

………………?

店長の男

……やっぱり手伝わなくていい

シャルロ

あら

店長の男

まぁ、特に急ぎで手伝って欲しいことはない

シャルロ

ってことは! 今日のシャルロのお仕事はこれでおしまいですかっ!?

店長の男

そういうことになるな

シャルロ

てんちょーはっ!?

店長の男

俺はまだ修理しなきゃならん。この魔法剣も

シャルロ

他の人にまかせちゃえばいいじゃないですか!

店長の男

他の人って……。ウチは俺とシャルロしか従業員がいないはずだと思うんだが……?

シャルロ

えっ、そうですよ? もー、てんちょーってば、一応店長なんですから経営状況くらいしっかり把握してくださいですー

店長の男

………………

シャルロ

………………?

店長の男

……まぁいい。で、今日は俺もこれでおしまいにした方がいい理由は? なにかあるのか?

シャルロ

それな!

店長の男

指を差すな、指を

シャルロ

これはさっき配達に行ったとき、ダルかったんで屋台で買った焼き菓子を食べ歩きつつ寄り道した広場で噂好きな貴婦人方からガッツリ盗み聞きした話なんですけど

店長の男

……あとで減給しておこう

シャルロ

なんとっ! これからお城にっ! ガルディ・バルトハルト将軍が来るらしいんですよっ!

店長の男

……そうか

シャルロ

あっ!? 反応うすい!? もしかして、ご存じ……ないのですか……っ!?

店長の男

知ってるさ、よーく知ってる

シャルロ

今から20年前、【魔神】を封印した七英傑の一人!【紅蓮の獅子】こと猛将ガルディ! 豪腕もさることながら炎魔法を得意とし、大斧を一振りしたあとには雑草ひとつ残らない!

店長の男

知ってると言ったはずだが……

シャルロ

七英傑に生でお目にかかれるチャンスなんてそうそうないですよっ! これは是が非でも野次馬に行かないと損です! そんそん、ですっ!

店長の男

俺はいい。シャルロだけ行ってこい

シャルロ

はー、つれない人ですねー

店長の男

………………

シャルロ

他の英傑も来るかもなんですよ? ほら、たとえばてんちょーがファンの【勇者】シルス様とか

店長の男

ちょっと待て。俺がいつシルスのファンだなんて言った?

シャルロ

えっ、だって名前が同じじゃないですか。てんちょーの名前って、シルス・サトーでしたよね?

シルス

……確かにそうだが

シャルロ

ほら、ファンじゃないですか

シルス

その理屈はどうなんだ……?

シャルロ

【紅蓮の獅子】ガルディと【勇者】シルスのツーショット……! おおお……! 考えただけでも鳥肌モノですよ、これはっ!

シルス

シルスは来ると決まったわけじゃないだろう……。というか、来ないと思うがな

シャルロ

かーっ! これだから! これだからてんちょーは! やってみる前に希望を捨ててどうするんですか! 希望を持てるのはやってみる前だけなんですよ?

シルス

フッ……裏切られるのは希望を持っている人間だけさ……

シャルロ

えっ、なんて?

シルス

………………

シャルロ

はー、同じシルスさんなのに……。片や世界を救った英雄、片や部屋の隅っこで濡れそぼった矮小な魔法剣をシコシコこするだけの引きこもり店長なんて……

シルス

水属性の魔法短刀を研磨する様子をそんな風に表現するな

シャルロ

もうシャルロひとりで行っちゃいますからねー! あとでくやしがってもダメですからねー! やーい、引きこもりシコシコてんちょー!

シルス

シコシコて……ん? この気配は……

シルス

シャルロ、お城へ行く必要はなくなったみたいだぞ

シャルロ

えっ、どういうことです?

シルス

あの怪力バカめ……

シルス

俺のそばを離れるな

シャルロ

……それはつまり、『お城なんか行かず、一緒に俺の魔法剣をシコシ――』

シルス

………………

シャルロ

ぎゃーっ!? なにおもむろにシャルロのことを抱き寄せてるんですかーっ!?

その瞬間、爆音とともに店の天井が崩れ落ちた!

シャルロ

ぎゃーっ!? 炎の隕石ーっ!?

否! それは巨大な斧の形をした爆炎の塊!
炎の大斧が『サトー修理店』を粉砕する!

シルス

俺を試すつもりか、まったく……

シルスは炎の大斧を片手で受け止めた!
火の刃はシルスを焼き斬ることができず、指の間でジウジウと音を立てている!

シャルロ
シルス

シャルロ……は、驚きすぎて気絶したか。まぁ、その方が都合はいいが……

指に力を込めた途端、大斧は粉々に砕け散った!

焼け落ちた店の入り口には、一人の大男が立っていた!

???

……!

シルス

……店の修理代はしっかり請求させてもらうぞ、ガルディ?

ガルディ

ガハハハハッ! オレの一撃を片手で止めちまうったぁな!

ガルディ

腕はなまってねぇみてぇだな、【勇者】シルス!

満足げに笑うガルディ!
シルスは肩をすくめてみせた!

シルス

……昔の話だ

と、勇者は言った!

「昔の話だ」と勇者は言った

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