国王認定武器屋『サトー修理店』にて。
国王認定武器屋『サトー修理店』にて。
てんちょー! 配達おわりましたですー!
あぁ、ごくろうさま
他にお仕事ありますですかっ!?
そうだな……もう配達できる品物はなかったか……
てんちょーが今修理してるのはっ!? 手伝う!?
いや、これは魔法剣だから……シャルロにはちょっと難しい。魔法が暴発したら危ないし
そんなことないですっ!
あるだろう……
そんなばかな
炎属性の魔法剣を暴発させて、あそこの天井を焦がしたのは誰だったかな……?
えっ、シャルロですよ? てんちょーってば忘れちゃったんですかプププ
………………
………………?
……やっぱり手伝わなくていい
あら
まぁ、特に急ぎで手伝って欲しいことはない
ってことは! 今日のシャルロのお仕事はこれでおしまいですかっ!?
そういうことになるな
てんちょーはっ!?
俺はまだ修理しなきゃならん。この魔法剣も
他の人にまかせちゃえばいいじゃないですか!
他の人って……。ウチは俺とシャルロしか従業員がいないはずだと思うんだが……?
えっ、そうですよ? もー、てんちょーってば、一応店長なんですから経営状況くらいしっかり把握してくださいですー
………………
………………?
……まぁいい。で、今日は俺もこれでおしまいにした方がいい理由は? なにかあるのか?
それな!
指を差すな、指を
これはさっき配達に行ったとき、ダルかったんで屋台で買った焼き菓子を食べ歩きつつ寄り道した広場で噂好きな貴婦人方からガッツリ盗み聞きした話なんですけど
……あとで減給しておこう
なんとっ! これからお城にっ! ガルディ・バルトハルト将軍が来るらしいんですよっ!
……そうか
あっ!? 反応うすい!? もしかして、ご存じ……ないのですか……っ!?
知ってるさ、よーく知ってる
今から20年前、【魔神】を封印した七英傑の一人!【紅蓮の獅子】こと猛将ガルディ! 豪腕もさることながら炎魔法を得意とし、大斧を一振りしたあとには雑草ひとつ残らない!
知ってると言ったはずだが……
七英傑に生でお目にかかれるチャンスなんてそうそうないですよっ! これは是が非でも野次馬に行かないと損です! そんそん、ですっ!
俺はいい。シャルロだけ行ってこい
はー、つれない人ですねー
………………
他の英傑も来るかもなんですよ? ほら、たとえばてんちょーがファンの【勇者】シルス様とか
ちょっと待て。俺がいつシルスのファンだなんて言った?
えっ、だって名前が同じじゃないですか。てんちょーの名前って、シルス・サトーでしたよね?
……確かにそうだが
ほら、ファンじゃないですか
その理屈はどうなんだ……?
【紅蓮の獅子】ガルディと【勇者】シルスのツーショット……! おおお……! 考えただけでも鳥肌モノですよ、これはっ!
シルスは来ると決まったわけじゃないだろう……。というか、来ないと思うがな
かーっ! これだから! これだからてんちょーは! やってみる前に希望を捨ててどうするんですか! 希望を持てるのはやってみる前だけなんですよ?
フッ……裏切られるのは希望を持っている人間だけさ……
えっ、なんて?
………………
はー、同じシルスさんなのに……。片や世界を救った英雄、片や部屋の隅っこで濡れそぼった矮小な魔法剣をシコシコこするだけの引きこもり店長なんて……
水属性の魔法短刀を研磨する様子をそんな風に表現するな
もうシャルロひとりで行っちゃいますからねー! あとでくやしがってもダメですからねー! やーい、引きこもりシコシコてんちょー!
シコシコて……ん? この気配は……
シャルロ、お城へ行く必要はなくなったみたいだぞ
えっ、どういうことです?
あの怪力バカめ……
俺のそばを離れるな
……それはつまり、『お城なんか行かず、一緒に俺の魔法剣をシコシ――』
………………
ぎゃーっ!? なにおもむろにシャルロのことを抱き寄せてるんですかーっ!?
その瞬間、爆音とともに店の天井が崩れ落ちた!
ぎゃーっ!? 炎の隕石ーっ!?
否! それは巨大な斧の形をした爆炎の塊!
炎の大斧が『サトー修理店』を粉砕する!
俺を試すつもりか、まったく……
シルスは炎の大斧を片手で受け止めた!
火の刃はシルスを焼き斬ることができず、指の間でジウジウと音を立てている!
シャルロ……は、驚きすぎて気絶したか。まぁ、その方が都合はいいが……
指に力を込めた途端、大斧は粉々に砕け散った!
焼け落ちた店の入り口には、一人の大男が立っていた!
……!
……店の修理代はしっかり請求させてもらうぞ、ガルディ?
ガハハハハッ! オレの一撃を片手で止めちまうったぁな!
腕はなまってねぇみてぇだな、【勇者】シルス!
満足げに笑うガルディ!
シルスは肩をすくめてみせた!
……昔の話だ
と、勇者は言った!