フェリックスが連れてこられたのは冷たく薄暗い研究所の一角だった。ここは他の猫たちも押し込められている、人間の好奇心の犠牲となった場所。視界には、疲れ果ててぐったりとした猫、不安で鳴きわめく猫、そして憤りで毛を
逆立てる猫が映った。

フェリックスは檻の中に放り込まれ、
鍵をガチャリと音を立てて閉ざされる。

フェリックス

大丈夫ですか?

にゃー

フェリックスが隣の檻にいる猫に声をかけた。
答えはただの「にゃー」という鳴き声だけ。

フェリックス

おや、なぜ同じ猫なのに通じないのか?

フェリックス

言葉を忘れたのか?

新入りね

振り返ると、
一匹の猫がフェリックスをじっと見ていた。

フェリックス

はい、あなたは?

アイリ

私はアイリ。猫の国の記者よ。実態を暴きに来たけど、この通り捕まってしまったの

フェリックス

私は探偵のフェリックスです。ある猫を探しにきました。

アイリ

わざと捕まったの?!

フェリックス

はい

アイリは辺りを見回しながら

アイリ

変だと思わない?なぜか言葉が通じないのよ。ある程度のコミュニケーションは取れるけど。

フェリックス

ここで何か口にしたり実験で薬など打たれましたか?

アイリ

私はまだ何も口にしていないし、何も打たれてないわ。

フェリックス

人間の与えるものは決して食べてはいけません。

アイリ

わかったわ。確かに、暴れている猫を捕まえて、何か薬を打っていた

フェリックス

何か副作用があるのかもしれないですね。

アイリ

フェリックス、どうやってその猫を探すの?

フェリックス

人間は私たちが知能が低いと考えているようですね。現にここの鍵は…

アイリ

開いた!

フェリックスは巧みに檻の鍵を外した。それは
外側から鍵の引っ掛けられた部分を見つけ、
それを上に持ち上げるだけで、ドアのロックが
解除されるという粗末なものだった。

フェリックスは冷静な手つきで檻の鍵を開けた。金属の音が小さな部屋に響き渡り、
アイリの檻の扉が開く。

フェリックス

あなたも猫の国へ帰りなさい。そこの窓から出るのです

部屋の一隅にある小さな窓がある。
鉄格子はあるが、猫の柔軟性を考えれば、
それは障害にはならない。

アイリ

フェリックス、私はここの内部を調査しているわ。あなたの役に立てるはずよ。

アイリ

一緒にその猫を探しましょう。

フェリックスは一瞬考え込むと、やがて頷いた

フェリックス

分かりました。でも危険を感じたらすぐに逃げてください。あなたは一度捕まっていますから。

アイリ

わかった

二匹は部屋の扉を開けて廊下へと
足を踏み出した。

アイリ

あの部屋にいないということは、多分実験室に連れていかれた可能性があるわ。

フェリックス

実験室…どうか無事でいてくれ。

アイリは、天井裏へとつづく小さな穴へと案内した。そこには複雑に張り巡らされた排気ダクトがあり、その中を二匹は身を低くして移動する
静かな足音が、
重厚な空気を切り裂くように響いていた

つづく

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