けろりとセイさんが言う。

 神様ですか、というミドリの言葉を思い出す。そんなことができてしまうなんて――。

記憶操作と、容姿変化は僕の十八番だからさあ。君だってよく知ってるだろ?

 ぽん、と肩を叩かれる。確かに、俺の記憶は操作されていたし、容姿もぽんぽん変えられていた。

ちなみに、三番目の世界で、僕に時間は止められないって言ったの、覚えてる?

ああ……覚えています

 キスしていいか、とジャスミンに言い寄られたときのことだ。

 サンザシが驚いて、だめだと、魔法を使って止めにかかった、あのとき。

 セイさんが現れて、確かにそう言っていたはずだ。

時間が止められるのが、そこの姫様が恋した神様ってわけさ。

時間を操作するのが得意な神様だったんだよねえ。

今、休養中だからさあ。もう、大変だよ。

時間関連の神様ってなかなかいないんだから。もう、神様界ではてんやわんや

 ……えっと。

セイさん、すみません。

話があちこちに飛んで申し訳ないんですけど、セイさんは神様なんですか?

きゃー! その話はまった今度ー!

 背中をばしんと叩かれる。

 痛い。もう、なんなんだこの人!

まずは、彼女の罪の話だよ

 セイさんは、うっすらと笑って、姫様に視線を向けた。

記憶を抜かれて、この世界でのほほんと生活していた訳じゃない。

彼女は、恋をする必要があった

 姫様が、こくりとひとつうなずいて、力なく笑った。

真実を知ったのは、あなたがいなくなって二週間ほど経ったときでしょうか……しっかりと、恋の自覚をしたのです。

そのときに、セイさんから伺いました。

受け入れるまで、それからさらに一ヶ月ほど要しました……つい、最近です

 そんな、酷いことって。

償い、だからね

 俺の心を呼んだように、セイさんが言った。その声は少し厳しく、確かにと思えてしまうような迫力だった。


 罪の、償い。


 シリアスな展開だとセイさんは笑っていたが――

本当の恋をして、そうして、失恋することが、罪の償いです

え……それじゃあ

 姫様の頬を、ゆっくりと涙が伝った。

だめですね、たくさんたくさん泣いたのに、まだ、涙が出るなんて

……あの、縁君と

ええ。私が恋に落ちて、それから、そこの……セイさんより、すべて聞かされました。

全てを思い出しました。

でも、この先のことを、私は知りません

 姫様が微笑む。優しい風が、涙をぬぐった。

あなたが知っていると。

あなたが次にいらっしゃったとき、あなたが判決をくだすと、そう、セイさんに言われたのですよ

 俺が判決を下す?

俺は、そんな権力ないはずですよ……ねえ、セイさん

わかってないなー、君は今、何をしているんだい

 何をしているって……。

物語を……

 ああ、と声が漏れる。そういうことか。


 この世界は桃太郎の世界だと思っていたが、これは、また新たな物語なのかもしれない。

まって、ください



 整理整頓する。


 悲恋ものなんて、そんなにたくさんあっただろうか。


 ぱっと浮かぶのは人魚姫。でも、それでは姫様が死んでしまう。

 まてまて、落ち着け。冷静に整理整頓だ。


 未来から来た、姫様。
 別世界から来た、姫様。

 ……やはり、人魚姫の可能性がぬぐいきれない。

縁君に、恋人はいるんですか

 セイさんに耳打ち。思いきって聞いてみる。心臓が高鳴ってくる。

いないよ!

 声が大きい! しかし、恋人がいないのなら、人魚姫説は薄くなる、と思う。

 消えてほしい、と願う。

人魚姫ではありませんね

そうだね!

 俺が耳打ちしているのに……うるさいなあこのサポーター……!


 しかし、だと、したら――もしかすると。


 姫様というあだなは、桃太郎のときのミスリードだと思っていたけれど、もしかしたらそうではなかったのかもしれない。

彼女は、お姫様の位置ですよね

そうだね! お話の中ではね!

それで……罪を


 罪を償う、姫様。

 罪を償いに、過去にやって来た。

 だとしたら。















6 秘密のディスクと不思議な姫様(15)

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