きれい

 姫様の目が、輝く。

涙が出るほど、きれい

 姫様は、息をゆっくりと吸って、ゆっくりと吐いてを繰り返していた。

 そうしないと、泣いてしまいそうなのだろう。

すべて、あなたにはお話しします

 姫様は、振り替えって、微笑んだ。ええ、と俺はうなずく。
 優しい風が吹いていた。

未来で、私はとある神様に恋をしました

神様に、恋ですか

ええ。とても素敵な方でした。愛していました。本当の恋でした

本当の恋……

あなたは

 姫様が微笑む。少し、寂しそうに。

本当の恋だと、思う恋をしたことがありますか



 ふと、脳裏に浮かぶのはサンザシの顔だ。

 ずっといっしょにいたいと願って、弱ったときに助けてほしいと思い、さみしい顔をしていると辛くなって、笑うと素直にかわいいと思う。


 俺は、サンザシに出会うより前の、記憶はない。
 歴史の浅い、自分自身。

 それでも。

……もしかしたら

 随分と間が空いてしまったことを気にしたのかもしれない。姫様も長考して、やがてやっと、ぽつりと返事をくれる。

……人によって、形は違うのかもしれませんが、私の恋は、とても優しくて、辛いものでした

優しくて、辛い……

 考えると心が暖かくなって、離れている今も、ずっと、頭の片隅で考えてしまうほどに、辛い。

 それは。

俺も、そうです

 今度は、即答だった。そう、と姫様は顔をくしゃっとゆがめた。

だったら、一緒かもしれませんね。参っちゃいます……こんなに、幸せで不幸だなんて

 姫様は、目を閉じる。

私は人間で、あの方は神様。

住む世界が違う中での恋愛は、とても楽しく、とても苦しいものでした

 姫様は、うっすらと目を開けたあと、空を仰いだ。どこまでも、オレンジ色の空が広がっていた。

でも、恋愛することが罪なのですか?

 そんな酷いこと、あってたまるものか。
 そう言おうとしたが、その前に、姫様のさみしい笑顔に遮られてしまう。

いいえ。ちがいます。

私の罪は、神様を人間にしようと試みてしまったことでした

そんなこと……できるんですか

 俺の質問に、姫様は黙ってくちびるをかんだ。

 代わりに教えてあげよう、とでもいいたげに、セイさんが口を挟んでくる。

悪いやつの口車にのって、騙されたんだよね。結果として、その神様は消滅しかけた

……ええ、そうです。なんとか生き延びてくださいましたが、私は神殺しの罪人として……この世界に

流された

そうです

時空を越えて……でも、その恋は、随分幼い頃の恋、ですか?

……なぜです?

縁って人と、幼馴染みだっておっしゃっていたので……

 ああ、と姫様は微笑んだ。
 今にも崩れていきそうな、笑顔だった。

記憶を抜かれて、姿も変えて、この世界に移動させられたのです

僕の仕事だったんだよ、ってさらっとネタバラシしちゃおっかな

6 秘密のディスクと不思議な姫様(14)

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