プロローグ 神薙アスマのスタイル

「夢はきっと叶う」なんて言葉は、その夢を食い物にしようとしている奴らの戯言(ざれごと)だ。

――なんてことを作文で書いたのは、中学二年生の時だったかな。

「将来の夢」とかいうあまりにも馬鹿らしいお題にそうやって書いて提出したら、教育実習のお姉さんが泣きながら怒り出したんだった。

仕方ないので「将来は先生みたいな生徒に愛される先生になりたいです」に書き直したら泣きながら喜んでた。


バカだ。


なんでそんなことを思い出したのかというと、俺が異能バトルなんかに参加してるのも、そんな考え方のせいなんだろうな、と思ったからだ。

そう、異能バトルである。

といっても俺自身に能力があるわけじゃなくて、パートナーの神様が変身して武器になり、それを手に戦う、代理戦争というか、バディファイトというか。

まあ、そういうタイプのバトルものだと思ってほしい。
その戦いを〈最終戦争(アポカリプス)〉と言う。

で、俺は今その〈最終戦争〉の真っ最中ってわけ。

アスマさん! 右方向から攻撃、来ますよー!

俺の名前を呼ぶのは、俺が手に持った弓だ。

弓といっても弓道で使うようなやつとは違う。
アーチェリーに似ているが、もっとメカメカしい感じだ。

持ち手の近くから空中に飛び出した画面の中で、金髪のSD少女が騒いでいる。


俺のパートナーの神様、アルテミスだ。
というか、この弓自体が、アルテミスが変形したものなんだけどな。

アスマ

ちっ……

俺は攻撃をかわすために移動。

すぐ横を白い光が通り過ぎて、近くの家と電柱をぶっ壊した。

ああ、ちなみに俺たちが今いるのは〈転聖神域(ディヴアイン・スフィア)〉という特殊な空間。

生物以外の現実がそっくりコピーされた空間で、中でどんな戦闘が起こってどんな破壊が為されても、元の現実に影響は出ない。


――とまあ、こんな感じでこれは、よくある異能バトルの物語だ。




もうその手の話は飽きたんだけど! と言いたくなるが、現実に巻き込まれちゃってるんだから仕方がない。


ただ、この物語にちょっと変わったところがあるとすれば――

アルテミス

やっばいですよーアスマさん! 第二射、第三射、どんどんきますー!

アスマ

ぜんぜんヤバくねえよ

俺はテキトーにジグザグ移動しながら、相手を探す。

白光がさらに放たれ、建物を破壊する。

相手の攻撃力はそれなりに高い。

けど、頭はあまり良くないようだ。
何発も違う角度で撃ったら、その発射地点は簡単に予測できる。

俺は弓を構えた。

白い光が凝縮して矢の形をとる。

アスマ

……見えた

矢を放つ。

すぐに「ぐあっ!」と悲鳴が聞こえた。

命中したようだ。

アルテミス

やりましたよ! さすがアスマさん!

アスマ

相手が間抜けなだけだっての

簡単に命中したのは、俺が弓矢の名手だからとか最強系の主人公だからとかそんな話ではなく、弓本体であるアルテミスが調整してくれるからだ。

そもそも今の一撃でとどめをさせないんだから、最強でもなんでもないよなぁ……。

相手がいる場所へ移動する。
民家の屋根の上に、大柄な男が片膝をついてうずくまっていた。

外国人だろう。
どこの国の人間かは分からん。

〈最終戦争〉には世界中から神様と人間が参加しているのだ。

おのれ……まさかこんなに簡単に…………

アスマ

そりゃこっちのセリフだって。
今まで五人くらいと戦ってきたけど、こんなに早く勝負がつきそうなのは初めてだ

俺は弓を構える。
狙うのは男が手に持った拳銃型の武器。

〈最終戦争〉の戦闘は、相手が持つ武器である、神様が変身した〈神器(アセット)〉――正確には、そこにはめ込まれた神と人の契約の証である〈転聖鍵(セイクリッド・キー)〉を破壊することで勝敗が決まる。

ま、待て!

不意に男が叫んだ。

きょ、協力しようじゃないか! オレの信念は《正義》! そう、この世界を正義で満たすのが目的なんだ! き、きっとお前の信念と共存できるはずだ。

だから――

そうそう、二つほど大事なことを話すのを忘れてたな。


一つ、〈最終戦争〉の目的は〈生命の樹の実〉。

この戦いで最後まで勝ち残った神と人は、そのどんな願いでも叶えてくれるアイテムを手に入れられるそうだ。


もう一つ、この戦いでは「信念」が力となる。

神と契約して〈転聖鍵〉を受け取った人間――〈転聖者(オーヴァーライド)〉の持つ信念が強ければ強いほど、パートナーであり武器でもある神の力は強くなる。

まあそんなわけだ。




で、この男のお誘いに対する俺の答えだが、

アスマ

いやだ

え?

アスマ

いや、普通にイヤだろ。《正義》って信念掲げてるくせにそんな弱いあんたと組んで、俺にどんなメリットがあるんだよ? あんたが得するだけじゃないか。そういうのは協力じゃなくて、寄生とか依存って言うんだよなぁ

アルテミス

アスマさん……またそういうクズなことを……

なんかアルテミスの呆れ声が聞こえてくるけど無視無視。

アスマ

それに――あんたの信念と俺の信念は、絶対に共存なんかできねえよ

な――ぐっ

男は怒り声を漏らす。

おーおー顔真っ赤にしちゃって。

な、ならば、お前の信念はなんなんだ! 正義と共存できない信念なんか、この世に存在できるはずがない!

アスマ

…………

俺は小さくため息を吐く。


まったく――。


本当に、この〈最終戦争〉に参加してるヤツは、こんなヤツばっかりだ。

アスマ

俺の信念は――《叛逆(はんぎゃく)》だ

は?

アスマ

あらゆる信念に叛逆し、あらゆる思想に叛逆し、正しい者に、義を掲げる者に、総ての存在者に――抗(あらが)い逆らい叛旗(はんき)を翻(ひるがえ)す。

それが俺の信念だ

ば、かな……

男は愕然として目を見開く。

目の前に立つ俺が理解できないというように。

バカなバカなバカな! そんな信念で〈最終戦争〉を戦えるものか! そんな、そんなもので……ならば、お前はなんのために戦う!? 〈生命の樹の実〉を手に入れて、お前は何を願うつもりだ!

アスマ

世界に叛逆するに決まってるだろ

はぁ?

男は再び目を見開いた。
もう戦闘中だという意識は無いに等しい。


ただ、自分の信念である正義と擦り合わせて、俺の信念を理解しようと努めている。

アスマ

〈生命の樹の実〉を手に入れて、俺は――

そんな男に、俺は構わず言ってやる。

人と人が理解し合えるなんて幻想に過ぎないんだという事実を叩きつけるように、

アスマ

――このクソみたいな世界を滅ぼしてやる

は……?

三たび目を見開く男。
もう、漏れた声はただの吐息だ。

俺の答えは、男の理解の範疇を超えてしまったらしい。


まあ、仕方ない。

〈最終戦争〉に参加する奴は、どいつもこいつも正論を振りかざす奴らばかりだ。

そんな奴らが、自分とまったく相容れない信念を持つ、しかも自分より強い奴と出会ってしまったときのショックは計り知れない。


言うなれば、小学生のとき「クラスの目標」をみんなで決めてて、「みんな仲良く」って目標に決まりそうな時に一言「そんなの実際無理だろうけどね」って呟いたら周りが一斉にフリーズしたみたいな感じ。


まあそのあと俺を除いてみんな仲良くなったので目標達成と言えなくもないですねー。



固まってしまった男を見下ろしながら、俺はそんなことを思い出す。

思い出し笑いが浮かぶ。


男からは、いったいどんな表情に見えているのだろう。
きっとひどく残酷で、酷薄で、皮肉めいた嘲笑になっている。


嘲笑を浮かべ、俺は言い放つ。

アスマ

くたばれよ、正義の味方のクソ野郎

男は我に返ったように悲鳴を上げるが、遅い。
矢を放つ。

光の矢が男の拳銃を貫き、破壊した。




――そう、このありがちな異能バトルの物語に、ちょっと変わったところがあるとすれば、それは、語り手の俺が、正義の味方でも、友達思いの熱血漢でも、姫を護る騎士でも、妹大好きなお兄ちゃんでもなく、
世界を滅ぼしたくて戦っている――




ただのクズだってことだ。

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