ビルの上の待ち人は白いスクール水着に身を包んでいた。

肌が綺麗とか髪さらさらとか顔立ちが整ってとか、そういうことは魔法少女のお約束であるため、会う前から承知している。

驚いたのはそのセンスだ。

外見年齢はおよそ高校二年生くらいか。

発育はとても良い。

胸や尻の量感、迫力、むちむちとした質感、いずれもトップスピードを上回る。

その肉体に真っ白なスクール水着を合わせようというセンスに、トップスピードは内心唸らされた。

アンバランスな物同士を掛け合わせることで別種の情感を生み出そうとしているのではないか。

「粋」とか「傾奇(かぶき)」とか「伊達」とかそういった服装、服飾に通じるものがある。

かくいうトップスピードもファッションには拘りがあった。

現役時代に背負っていた「御意見無用」の特攻服を魔法少女仕様にして羽織り、交通安全と安産祈願を兼ねたお守りを首に提げ、魔法の箒は族車仕様でシブく改造し、ばっちりキメている。

どこにでもいるような「箒に乗った魔女」と一緒にすんじゃねーぞダボが、ということを反抗的なファッションセンスによって叫ぶことなく主張していた。

「魔法少女育成計画」のアバター作りは、このように改変の幅が大変に広い。

自分と似たファッションセンスを持つ魔法少女と出会ったのは初めてかもしれない、と若干気持ちを高ぶらせながら高度を下げ、箒から降りた。

トップスピード

ういっす! はじめまして! 俺、トップスピード。よろしくな

スイムスイム

スイムスイム

トップスピード

おお、シブい名前じゃん。いやさっき聞いたけどさ。んで今日はナンか用があるっつーことで呼び出してくれたんだろ? 山に連れてってほしいとか?

スイムスイムはこくりと頷き、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。

ルーラ主催の紅葉狩りのこと。

勘違いか、それとも連絡のミスか、スイムスイムが日時を間違えてしまったこと。

紅葉狩りはとても楽しみにしていたから参加したいこと。

だけど今から山に行っても間に合わないかもしれず、合流できるかどうかもわからないこと。

お姫様であるルーラの命令に逆らってはいけないこと。

トップスピード

なるほどねぇ。それで俺を頼りに話を持ってきたってわけだ

スイムスイム

ルーラがいってた。利用できるものならなんでも利用しろ

トップスピード

はっはっはっは。利用しようとしている相手に面と向かってそれをいうかよ。お友達になれそうじゃねえか、おい

スイムスイム

ルーラがいってた。手下とリーダーの関係はあっても友達なんていい加減な関係はない

トップスピード

うはははははは!

ファッションセンスも気に入ったし、真っ正直さも気に入った。ついでにいうなら全くブレる気配のないキャラも気に入った。

元来「遊び」を求める性格で、「遊び相手」も同時に必要とした。

助けを求められたらそれに応じる。

気に入っている相手なら尚のこと。

それがトップスピードの渡世だ。

トップスピード

オッケー。その依頼受けてやる。明将山でいいんだな?

スイムスイム

うん

トップスピードは魔法の端末を取り出し、リップルに連絡を入れた。
 

「燕無礼棲」はたった五名のチームともいえないような小さなチームだったが、引退するまでN市最速の看板を下ろすことはなかった。

誰よりも速く走るには、テクニックやマシンの他にもコース取りが必要になる。

無線の傍受、他チームとの情報交換、走りに適した道の選択、そういったマネージメントがあってこその最速だった。

現役を引退した今もやり方は変わらない。

最速のルートを選定することから始める。

西門前町から明将山まで行こうとすると、間にあるのは城南地区。

カラミティ・メアリの縄張りだ。

うっかり足を踏み入れて禍根を作っても誰一人得をしない。

ここで迂回を選ぶのは素人だ。

まず、トップスピードがリップルを呼び寄せる。

リップルは先日カラミティ・メアリと殺し合い寸前の喧嘩別れをした。

そのお詫びに、土産を持たせてカラミティ・メアリに謝りに行かせる。

その隙にトップスピードとスイムスイムが城南地区を抜けて明将山へと突っ切る。

登場人物全員が得をするという素晴らしいプランだ。

トップスピード

もしもしリップル?

リップル

……なに?

トップスピード

あのさ、ちょっとカラミティ・メアリに謝りにいってもらいたいんだけど

舌打ちと同時に電話が切れた。

慌ててかけ直すが繋がらない。

メールを送ると三十秒後に返信が来た。

返信メールの文面には「……チッ」と表示されていた。

ちらと横に目をやると、スイムスイムがじぃっとトップスピードを見ていて言葉に詰まる。

どうしたものかとしばし考えた後、トップスピードは再び魔法の端末を手に取り、電話をかけた。

トップスピード

あ、マジカロイド? うん、そう、俺。あのさ、お願いあるんだけどカラミティ・メアリに電話かけてもらえない? うん、ちょっとだけ隙が欲しくて……わかってる、後で払うから。五千? いやせめて三千で……ああうん、じゃあ四千で。悪い。ありがとう。恩に着る

トップスピードは魔法の端末をオフにして懐に仕舞いこみ、さっと箒に跨って後ろを指差した。

トップスピード

計画は完璧だ! さあ明将山まで飛ばすぜ! 落とされんなよ!

ふわっと浮き上がる。

内臓まで浮き上がるようで慣れない間は戸惑った。

前傾姿勢で風防から前を見て一気に加速する。

瞬き一つするだけで全く別の風景がある。

学生時代は忌々しいくらい大きく見えていた学校が、あんなに小さい。

耳の側で風を切る音。

空気の抵抗さえ感じない。

何度経験しても気持ちがいい。

トップスピード

どうだ、すげえだろ!

スイムスイム

まあまあ

トップスピードの操る魔法の箒「ラピッドスワロー」は音より速く空を飛ぶ。

最高速度のラピッドスワローから落ちたら魔法少女でも大怪我を負うだろう。

後部座席のスイムスイムはしっかりとトップスピードの腰に取り付いているようで、落ちる心配はなさそうだった。

背中に圧倒的な肉感がある。

トップスピード

もうちょいでっかい系のアバターにしとくべきだったかなあ……

スイムスイム

……なにが?

トップスピード

いや、独り言。気にすんな

余計なことではなく、必要なことを考えなければならない。

明将山は広い。

魔法少女の視力をもってしても、山に到着してからルーラ達を探していては間に合わないかもしれない。

ルーラが選びそうなコースを予想する。

彼女の性格からすると、とりあえず一番高い場所を目指しそうではある。

トップスピード

馬鹿と煙と偉いやつは、っていうしな

スイムスイム

ルーラはどれ?

トップスピード

そりゃもちろん……馬鹿に偉いやつさ

それにトップスピードの箒に乗ってきたことを咎められないとも限らない。

むしろ咎められそうだ。

ルーラ

マイカーに乗って遅刻とはいいご身分じゃないか

と嫌味をぶつけてくるルーラが容易に想像できる。

ルーラは下手にさえ出ていれば扱いやすい相手ではある。

土産があればそれにこしたことはない。

家を出てくる時に持ってきた弁当。

本来は夫のために作った物。あれをこっそりと携えてきた。

今は風防の中に隠してある。

味には自信がある。

無愛想なリップルでさえ、僅かに頬を緩める程度に出来はいい。

紅葉狩りという行楽にもぴったりと合うはずだ。

ルーラの機嫌もきっとよくなる。

トップスピード

明日は弁当我慢してもらうことになるけどな

低く呟いた言葉に、話しかけられたと思ったのか、スイムスイムが返事をした。

スイムスイム

給食があるから

トップスピード

給食?

スイムスイム

毎日出てるから。お弁当は別にいい

給食が出る環境ということは、学校に勤めているか、学校に通っているか、どちらかだろう。

なんとなくだが、後ろの魔法少女は職員という感じではない。

トップスピード

中間テストのヤマは張ったかい?

スイムスイム

中間テストってなに?

小学生だ。

妙に受け答えがぼんやりしたやつだと思ったが、なるほどと納得した。

小学生がソーシャルゲームで遊ぶ世の中を多少苦々しく思いながらも、無料ならまあいいかとというのもあり、そもそも小学生である彼女の方が、十九歳人妻現在妊娠中の自分よりよほど魔法少女として相応しい気もする。

トップスピードはぎゅっと箒を握り直して後ろに話しかけた。

トップスピード

さっき友達なんていらないとかいってただろ

スイムスイム

ルーラがそういってた

トップスピード

友達ってのは必要なもんだよ

楽しい「遊び」には遊び仲間が必要だ。

かつての自分にはチームのメンバーが、今の自分にはリップルと……夫? 

夫は少し違うかもしれない。

スイムスイム

ルーラが友達はいらないっていった

トップスピード

んなこたねえ。ルーラにだって友達はいる

スイムスイム

……誰?

トップスピード

トップスピードって可愛い魔法少女さ

にやっと笑ってやったが、後ろのスイムスイムには見えないだろうとすぐに気づいた。

トップスピード

ま、いいや。そのまましっかり掴まってろよ。もう山だ。すぐ見つけるからさ

スイムスイム

ルーラの友達って

トップスピード

すぐ証明してやるよ。舌噛むから黙ってな

スイムスイム

じゃあこのお守りはなに?

トップスピード

質問の多いガキだな。安産祈願と交通安全……赤ちゃんが無事に生まれますようにってのと、事故ったりしませんようにって神様にお願いしてんだよ

スイムスイム

赤ちゃんが生まれるの?

トップスピード

おうよ

気恥ずかしくてリップルにも秘密にしていたのに、あっさりと口にしてしまった。

子供相手ということで口が軽くなっているのだろうか。

夏までは一面が深い緑色だった明将山は、赤と黄色、それに茶色、かろうじて残った緑色でまだらに染まっていた。

暗闇の中でも魔法少女なら紅葉狩りができる。

ルーラの考えるルートを予想し、山頂付近に目を配る。

まともな登山ルートではない、魔法少女でしか登れないような険しく、そして高い場所だ。

トップスピードは紅葉の上を周回しながら目を凝らし、ふわふわと飛ぶ人影を発見した。

トップスピード

ビンゴ!

光の輪に天使の羽。

あれはピーキーエンジェルズだ。

ミナエルかユナエルかまではわからないし、わからなくても問題はない。

トップスピード

いったろ? すぐに見つけてやるってさ。これが大人の力ってやつだ

後部座席に一声かけると、一呼吸しない間に目標に到達した。

目を見張ってこちらを見るミナエルとユナエル、それにこちらを見上げ、指差す偉そうなのはルーラ。

驚きの声をあげる犬耳はたまだ。レジャーシートを広げていたらしい。

たま

スイムちゃんどうしたの!

ミナエル

欠勤じゃなかったの?

ユナエル

欠勤っていうかサボタージュ?

ルーラは立ち上がり、杖の尻でどんと地面を突いた。

ルーラ

遅い! 遅刻するな大馬鹿! しかもなんでそいつが一緒に来てる!

トップスピード

そいつなんて冷たいこというなよ

トップスピードはスイムスイムを地面に下ろし、自分も箒から降りた。

にっこりと笑ってルーラの肩に手をかける。

トップスピード

俺とルーラの仲だろ

ルーラ

おいこら。気安く触るな

トップスピード

友達じゃん

ルーラ

誰と誰が!

トップスピード

俺とルーラが。あ、そうそう。弁当持ってきたから皆で食べて

弁当箱を出すと、たまとピーキーエンジェルズがわっと寄ってきた。

ルーラが赤い顔をして杖を振り回しているのを適当にあしらい、トップスピードはスイムスイムに振り返ってウインクをしてみせた。

反応はなかったが、たぶん伝わっているはずだ。

トップスピード

じゃ紅葉狩りと洒落込もうぜ。友達同士だ、遠慮なんていらねえからな!

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9│トップスピードと遊ぼう(2)

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