放課後に八重梅が俺の席まで来て、いくつかの提出書類を手渡された。
平君。菊菱さんが復帰した件について、私達で報告に来いと言われてるの。一緒に職員室まで来てもらえる?
放課後に八重梅が俺の席まで来て、いくつかの提出書類を手渡された。
ああ、それなら俺一人で行くよ。また弦巻にあーだこーだちょっかい出されんのも嫌だろ?
そう? なら任せてもいいかしら?
おう。……あとこれ
俺は鞄から長方形の小箱を取り出して八重梅に手渡した。
受け取った彼女はきょとんとしている。
……これは、何かしら?
ペーパーナイフ。適当に文具店で見繕ってきた
デザインは刀使いの彼女らしく、鞘入りの日本刀を象ったものにした。
だが俺の説明を受けても、未だに彼女の頭には疑問符が漂っている。
でも、どうして私に……?
お前刃物持ってないと落ち着かないんだろ? でもでかい刀だと危ねえから、もっと小型で安全なもの携帯すればいいって思ったんだよ。……それに誕生日も近いって聞いちまったし
え、いや、あの……別に、あの時誕生日だって言ったのは弦巻君だし。私も特に祝ってほしいとも言ってないし
こちらとしては自分の身を守るための打開策としてのニュアンスが強かったが、八重梅には末尾の言葉が強調されて届いたようだ。
……それじゃ俺が自分の安全のために押しつけたってことにしろ。無理に贈り物と解釈しなくていいから
八重梅がやけにまだるっこしいのでこちらとしても妙に気恥ずかしくなり、そう無理矢理納得させた。
こういう時に普通の女の子っぽいとこ見せるから、変に緊張すんだよ。
彼女はしばらく小箱を見つめていたが、突然それを両手で覆い隠すと、首を振って左右を見渡した。
どうした?
いえ、こんなとこあの茶髪男にでも見られてたら、またフラグがどうのと茶化されると思って
ああ、あり得る
いないとこでも厄介がられてるんだな、あのスリは。
でもあいつ、ああ見えてナイーブだから言わないでおこう。
周りに野次馬がいないことを確認すると、八重梅は箱を大事そうに鞄にしまった。
これ……すぐには順応するか分からないけど、いつかはこのサイズでも安心でKILL(きる)よう努力してみるわ
おう、頑張れよ
その『KILL』の使い方はちょっと無理があるんじゃないか……?
キャラ作りに対しての素朴な疑問を抱きながら、俺は「それじゃ」と鞄を肩にかけると教室の出口に向かう。
……ありがとう
ふと、そんな言葉が背中にかけられたような気がした。