やがて菊菱は、開きかけていたノートパソコンをパタンと閉じる。

菊菱遊

……私はまだ、八重梅達のことは……信じられない

やはり復帰後最初の言葉は、クラスに対する不信であった。

菊菱遊

──でも

でも、彼女は続ける。

菊菱遊

平の話を聞いて、私は八重梅や、人性や、鳥居笹や巴や弦巻のことを、知りたくなった。今はまだ、八重梅達のことは信じられない、けど、信じられるようには、なりたいと、思った

そしてゆっくりと立ち上がると、

菊菱遊

…………ご心配を、おかけしました

全員に向かって、ぎこちない動作で頭を下げた。


それを見たクラスの面々からは特別変わった反応はなかったが、その沈黙がこいつらなりの返答であることが分かった。

八重梅規理

顔を上げて、菊菱さん

優しげにかけられた声に、菊菱はおずおずと起立の姿勢に戻った。


委員長と視線が合って、緊張のあまり小刻みに震えている。




八重梅はそんな彼女に一つ微笑みかけると、紙の束を取り出し、いつも通りのきっちりとした委員長の態度に切り替わった。

八重梅規理

これ、今まで溜まってたプリントよ。授業で分からない点があれば皆に聞いて。きっと快く教えてくれると思うわ

どさりと相当な量の用紙を机に置くと、八重梅は颯爽と踵を返して自分の机に戻っていく。


菊菱はそのまま脱力したように、ぽすんと椅子の上に座り込んだ。

菊菱遊

……良かった

委員長との確執を修繕できた喜びに、一人ふう、と息を吐いていた。


そして俺も人知れず胸を撫で下ろした。




またも菊菱が悪口雑言を撒き散らす展開になるのではないかと心配していたからだ。

それを思えば今の復帰演説は、上々のスタートではないだろうか。

弦巻藤吾

良かったねー、遊っち! これで規理ちょんとも仲良くやってけそうだ!

菊菱遊

弦巻が歓喜の声を上げながらハイタッチでもしかねない勢いで菊菱に寄ってきたが、それには俊敏な動きで席から離脱し、警戒態勢を整える。

菊菱遊

……弦巻は、まだ苦手

弦巻藤吾

あ、そう……ごめんよ、遊っち

出鼻をくじかれた弦巻は、すっかりへこんでしまった。


こいつは女子に対して打たれ弱い面があるのかもしれない。




そんな様子を他の皆は愉快げに眺めていた。

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83|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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