六日目 謝罪表明
―しゃざいひょうめい―
六日目 謝罪表明
―しゃざいひょうめい―
どうも……本日よりこの教室の副担任を務めさせていただくことになります。菊菱忍と申します
──新しい仕事場ってここかよ!?
朝礼開始早々に俺のツッコミは教室内をこだました。
菊菱遊の兄、忍は元々ここの教員だったらしい。
そういや新任が行方不明になったとか柊先生がぼやいてたな……ようやくここで全ての伏線回収かよ。
だが我らが担任柊瑞穂は、突発的なシャウトに困ったような顔をするだけだ。
えっと、続けてもいいかしら?
はい、大丈夫です……
俺はスススと静かに着席する。
よく考えたら犯罪者予備軍の称号を持つ者がまともな会社で働けるわけがない。
ここはそういった奴らの職場としても、うってつけなわけだ。
新任教師の紹介が終わると、後は平常授業である。
すると一時間目が終わった休み時間に、八重梅が俺の後ろの席までやってきた。
菊菱さん
本日より登校を再開したハッカー予備軍は、その呼びかけにびくりと小柄な体躯を震わせて、固まった。
…………
そのまま二人は、膠着(こうちゃく)状態に入る。
両者の関係は、簡潔に述べれば不登校の決定的な要因を作ってしまった加害者と、その被害者。
自然とその間に生じた緊張感は、静かにクラスの中に伝播していく。
カチャリ。
八重梅がその手に持った刀を握り直した。
やけに大きく響いたその音につられて菊菱もわずかに身を引いた。
……ごめんなさい
膠着を破ったのは、八重梅の謝罪の言葉だった。
今までずっと、そしてついこの間も、あんな乱暴をしでかしておいて、誠意も謝意も感じられないとは思うけど、それでも一言あなたに謝らせて……ごめんなさい
八重梅は丁寧に詫びると、目線を合わせないように小さく頭を下げた。
菊菱に合わせる顔がないと何度も反省していた身だ。
面と向き合いづらい気持ちはクラス全員の知るところである。
当の菊菱はぱちくりと目を瞬かせていた。
怨敵の謝罪に面食らっているようだ。
なんとなく誰も口を出せないまま、再び静寂が教室中に満ちていく。
全員の関心は今、八重梅の誠意に対する菊菱の反応に寄せられていた。