平桔平

菊菱、もう一度言うが、あいつらを信頼できないならしなくていい。その代わり、俺を信頼しろ。俺がここに初めて来た時、お前ははっきりと俺なら信頼できると言ったよな? だからこれからもずっとそうしろ。俺を信じてくれ。つまり……ややこしい言い方になるけど、あいつらを信じる、俺を信じてくれ

菊菱遊

あいつらを信じる平を、信じる……?

菊菱から小さな声が漏れた。

平桔平

そうだ。俺は今回の事件を通して感じたけど、そもそも人に対して『信じる』か『疑う』かのどちらかしかない、なんてことはないんだ。常に他人への評価ってのは『信じる』部分や、『疑う』部分がごちゃまぜになってるんだよ。だからお前も、あいつらに対して疑いの感情しか抱けないなんてことはない。きっといつか信じられる部分を見つけられる。俺はそう信じてる。だからお前は、俺のその判断を信じてくれ

菊菱は言いくるめられそうになるのを拒否するように、顔を背けた。

菊菱遊

でも……平を信じても、あいつらが傷つけてくる事実は、変わらない

平桔平

あいつらはお前を傷つける気なんてない。もし結果的にそうなってしまうことがあっても、それはあいつらのせいじゃなくて、あいつらを信じろと命令した俺の責任だ。その時はお前の代わりに俺が傷つけられてやるよ

俺が一息に言い終えると、部屋の中がしんと静まり返った。

菊菱遊

…………

菊菱忍

…………

菊菱遊は、兄と一緒にぽけーと呆けた顔でこちらを見つめていた。


あれ? 




いい感じのこと言ったつもりだったけど……何だろう、この白けた空気は。

平桔平

えーっと、何か言ってくんないと、恥ずかしいんですけど

ひたすらの無言に段々と場の緊迫感が増していき、もしや交渉失敗? 

と不吉な予感が芽生えた時だった。

菊菱遊

最後……何て言った?

菊菱遊がぽそっと尋ねてきたので、俺はゆっくりと記憶を手繰りよせる。

平桔平

最後って、確か……お前が傷つくことになったとしたら俺の責任だ、だったかな

菊菱遊

違う。その後

平桔平

後? えーっと、その時はお前の代わりに俺が傷つけられてやるよ……

カチッ……と、ボタンを押す音が聞こえたと思うと、菊菱遊がおもむろに机の上に、細長い電子機器を置いた。

平桔平

? 何これ

『その時はお前の代わりに俺が傷つけられてやるよ』

菊菱がボタンを押すと、俺の声が再生された。

平桔平

…………これって

菊菱遊

言質(げんち)……いただき

菊菱が親指を立てる。この時点で、俺は自分がまんまと嵌められたことを認識した。

平桔平

えっと、あの、これは、まさか

菊菱忍

……平君

忍さんが、感動を隠しきれぬ様子で俺に握手を求めてきた。

菊菱忍

……君は本当に凄いよ。遊の被害を、代わりに受け持ってもらえるなんて

菊菱遊

平桔平身代わり案……いただき

ここまでの流れ──まさかの誘導尋問ですか!?

平桔平

いやいやいやいや、俺そんな自己犠牲の精神で説得に臨んでたわけじゃないし!

菊菱忍

てっきり平君の言葉を、編集で繋ぎ合わせるのかと思っていたけど、まさかそのまま発言を引き出すなんて……遊も、いつの間にか成長してたんだな

平桔平

なに爽やかにまとめようとしてんだよ! てかそんな悪質な手口も用意してたのか!

菊菱忍

……平君

菊菱遊

……平

菊菱兄妹は録音した音声を再生させて、親指を立てる。

菊菱遊

言質、いただき

菊菱忍

言質、いただき

平桔平

お前ら、最低だ!

もう、この学校嫌だ。

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81|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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