俺の言葉に菊菱遊はふるふると首を横に振った。
それを見て、俺と忍さんは同時に溜息を吐いた。
彼女がクラスメイトに抱いていた危機感は本物だ。
いずれは自ら口実を見つけて部屋に引きこもっていたに違いない。
あくまで今回の一件は、彼女にとって不登校の決意を後押しするきっかけにすぎなかったのだ。
俺の言葉に菊菱遊はふるふると首を横に振った。
それを見て、俺と忍さんは同時に溜息を吐いた。
彼女がクラスメイトに抱いていた危機感は本物だ。
いずれは自ら口実を見つけて部屋に引きこもっていたに違いない。
あくまで今回の一件は、彼女にとって不登校の決意を後押しするきっかけにすぎなかったのだ。
正直、これが一番の心配事でもあったんだよねえ。友達がいることを僕にアピールしようと、無理に好きでもない人生ゲームを平君としたりして……
え、あれ無理してたんですか……
さりげなくもたらされた事実に俺の中で何かがガラガラと崩れ落ちた。
無表情系美少女が見せる貴重なデレシーンかと思ってたのに……。
……あいつらが恐ろしいことは事実。私は自分の身を守るため、この部屋に居続ける
頑なな姿勢を見せる妹に、忍さんが優しく説得を試みる。
遊。学校に行かないといつまでも卒業できないよ。それに平君の話によれば、彼らはそれほど悪い人達ではないみたいだし
お兄ちゃんには分からない
…………
菊菱遊のお兄ちゃんという呼称に意外性を感じつつ、俺は状況を頭の中でまとめる。
困り顔で復帰への交渉を試みる兄と、それを突っぱね続ける妹。
両者のかけ合いを観察しながら、とうとう俺は自分なりの説得方法を捻出した。
もとより、これは俺に課せられた仕事であり、自惚れなしに俺にしかできないことなのだ。
菊菱、よく聞けよ
一つ間を置いて切りだすと、彼女の顔が僅かにこちらへ角度を変える。
お前があいつらを信頼できない気持ちは、よく分かる。事実、俺も一瞬ではあったけど、あいつらが犯人じゃないかって疑ったんだ。なにせあいつらは犯罪者予備軍だしな。そういう発想に至るのも自然だって巴も言ってたよ。でも何度も言ってきたが、あいつらはお前が思うほど凶悪な人間なんかじゃなかったんだ。出会ってまだ数日しか経ってない人間に労を厭わず協力してくれたし、何より菊菱のこともずっと心配してた。
あいつらは至って普通の、むしろ普通の連中よりもずっと思いやりのある連中なんだよ
熱心に語る俺を、菊菱は敵意の眼差しで見つめていた。
やはり今まで通りの交渉じゃ今一歩、彼女の心には響かない。
遊。……平君もこう言ってるんだし
こちらを援護するように忍さんが諭すが、
…………
彼女はひたすら頭を横に振って拒絶の意思を貫く。
それならば今回は、その意に沿ってやろうじゃないか。
分かった菊菱。お前がクラスの奴らを信頼できないなら、信頼なんかしなくていい
えっ……!?
忍さんが驚きの声を上げた。
妹も同じく、予想外の一言に二、三度瞬きをした。
ちょ、ちょっと、平君。それじゃ何の解決にもならないじゃ
忍さんは黙っててください
菊菱兄を制し、俺は続ける。