殺人犯が逮捕されたのは良いことかもしれないが、菊菱兄妹の手の平の上でまんまと踊らされてしまったことには腹が立つし、何より返却してもらった通帳には、相変わらず雀の涙ほどの金額しか記載されていない。

平桔平

これはどういうことだ! 俺の生活費はどこに消えたんだよ!?

怒る俺を前に、菊菱遊は極限の無表情のまま忘我の世界に逃避し、その兄は取引先の重役に謝罪を入れる中間管理職の如く頭を下げまくっている。

菊菱忍

いや〜、本当に申し訳ない! 二人の食い扶持がどうにも工面できなくて……僕は仕事場には行けないし、妹はこの調子だし

菊菱遊

……毎日コンビニ弁当

平桔平

嘘つけぇ! この金額だぞ! ほんの数日で使いきるわけないだろ!

その指摘に妹の遊がぷいと顔を背けた。

平桔平

菊菱遊……まさかお前が?

真相を究明しようとする俺に、彼女の兄が力なく弁明する。

菊菱忍

あの、僕は止めたんだけどね? でも遊がどうしてもって言うから……ゲームにお金を使っちゃったみたいで

平桔平

げ、ゲーム!?

菊菱遊

……精霊石を沢山入手した

打って変わって、菊菱遊はほくほくと満足げにスマホの画面を見せつけてくる。


そこには有料アイテムによって著しく上昇したと思われるステータス画面が表示されていた。

か、課金しやがった……! 
俺はショックでカキンと凍りつく。

待て、そんな馬鹿みたいな洒落をほざいてる場合じゃない。


今後の生活費用をどうしてくれる。

菊菱忍

まあまあ。これからは僕も職場に行けることだし、毎月少しずつ返していくよ。多大な迷惑をかけちゃった分、色をつけるからさ

平桔平

あんたはそれでいいのかよ……

もっと身内を叱りつけてやるべきだろ。


もしかして菊菱遊って素直なんじゃなくて、ただ甘やかされて育っただけなんじゃねえの?




だがまあ、妹の代わりに懸命に頭を床に擦りつける兄に免じて、ここは大海原の如く広い心をもって堪忍しといてやろう。


それに犯罪者予備軍相手に良識を説くのも馬鹿げてる気がする。

平桔平

じゃあ返済は毎月少しずつってことで。……でも問題はもう一つあんだろ、菊菱遊?

俺はツッコミモードを解除して、真剣な面持ちで彼女を見据えた。


一方の菊菱遊は、表情筋を強張らせながら目を逸らしている。


俺が言わんとしていることに、流石の妹想いの兄も口は挟まなかった。

平桔平

多分お前が引きこもった理由には、かくまった兄貴の面倒を見るためってのもあると思う。空き巣被害の発生し始めた時期とも一致するしな

話によれば彼女の兄は、新しい仕事のために、つい最近こちらに越してきたらしい。

平桔平

でもそれももう必要なくなった。だから明日からは学校に復帰できるんじゃねえのか?

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79|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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