菊菱は俺が訪れた時にはすでに粗茶を用意して待ってくれていた。
俺はそれをズズズと啜りながらことの成り行きを語って聞かせた。
菊菱は俺が訪れた時にはすでに粗茶を用意して待ってくれていた。
俺はそれをズズズと啜りながらことの成り行きを語って聞かせた。
──てな感じで、無事犯人は御用になったわけだ。……いや、無事ってわけでもねえな。俺は腕に怪我しちまったし
大丈夫?
ああ、幸いにも傷は浅かったから
俺は包帯を巻いた右腕を軽く振ってみせた。
それを見て菊菱もこくこくと頷いた。
お前のおかげだよ。あの情報がなければ犯人には辿り着けなかった。……あいつらがな
俺自身は情報の意味すら理解できなかったし。
我ながら探偵役は向いていないと自覚させられた。
あいつらは危険だけど優秀。私はそれを嫌悪しているけど
分かってるよ。ところで……今日ここに来た理由は、その報告とお前の説得と、あともう一つあるんだ
……何?
俺は持っていた紙コップを静かに机に置いた。
……盗まれた通帳と印鑑を返してもらおうと思ってな
!
菊菱は目をパチクリとさせた。
無愛想な彼女にしては希有な反応だ。
……平が、何を言っているか分からない
お前が最初から怪しかったって話だ。容疑者を絞り込む決め手になった盗品のネタにしたって、警察すら知らない情報をどうしてお前が知ってるんだ?
いくらネットの情報網が幅広いからって、限度ってもんがあるだろ
…………
お前が言ってくれないなら、俺が答えを言うぞ。お前は俺に強盗殺人事件を解決してほしかったんだ。わざわざ家に侵入して大切な通帳と印鑑を盗んでまでな。なぜ俺に事件を解決してほしかったのか? 簡単だ。
“お前がかくまってる人の容疑を晴らしてほしかったんだろ”? そして空き巣についての情報は、その人から直接聞いてたから知っていたんだ
その時、横の押し入れからガタンと物音がした。
それはまさしく、俺の推理が正しかったと証明する福音とも言える。
菊菱は観念したようにガクリと頭を垂れると、襖が内側からスススと開けられた。
……ど、どうも〜
中から現れたのは、気弱だが人の良さそうな若い男だった。
当たり障りのない髪型に、新品だが地味なスーツを着込んだ装いは、まだ学生っぽさの抜けていない新社会人のような雰囲気がある。
えっと……一応訊いておきますけど、菊菱さんとはどのような間柄で?
丁重にお尋ねすると、男も押し入れの中で恭(うやうや)しく正座のまま応じた。
菊菱遊の兄の……菊菱忍(しのび)です
……お兄さんでしたか
菊菱遊に妹設定が追加された。
もしかしてあなたも、何か犯罪的特性を?
はい。あまり自慢できることではないのですが……空き巣予備軍です
そういうことか……
ここでようやく全貌が明らかになった。