菊菱は俺が訪れた時にはすでに粗茶を用意して待ってくれていた。




俺はそれをズズズと啜りながらことの成り行きを語って聞かせた。

平桔平

──てな感じで、無事犯人は御用になったわけだ。……いや、無事ってわけでもねえな。俺は腕に怪我しちまったし

菊菱遊

大丈夫?

平桔平

ああ、幸いにも傷は浅かったから

俺は包帯を巻いた右腕を軽く振ってみせた。


それを見て菊菱もこくこくと頷いた。

平桔平

お前のおかげだよ。あの情報がなければ犯人には辿り着けなかった。……あいつらがな

俺自身は情報の意味すら理解できなかったし。


我ながら探偵役は向いていないと自覚させられた。

菊菱遊

あいつらは危険だけど優秀。私はそれを嫌悪しているけど

平桔平

分かってるよ。ところで……今日ここに来た理由は、その報告とお前の説得と、あともう一つあるんだ

菊菱遊

……何?

俺は持っていた紙コップを静かに机に置いた。

平桔平

……盗まれた通帳と印鑑を返してもらおうと思ってな

菊菱遊

菊菱は目をパチクリとさせた。

無愛想な彼女にしては希有な反応だ。

菊菱遊

……平が、何を言っているか分からない

平桔平

お前が最初から怪しかったって話だ。容疑者を絞り込む決め手になった盗品のネタにしたって、警察すら知らない情報をどうしてお前が知ってるんだ? 
いくらネットの情報網が幅広いからって、限度ってもんがあるだろ

菊菱遊

…………

平桔平

お前が言ってくれないなら、俺が答えを言うぞ。お前は俺に強盗殺人事件を解決してほしかったんだ。わざわざ家に侵入して大切な通帳と印鑑を盗んでまでな。なぜ俺に事件を解決してほしかったのか? 簡単だ。
“お前がかくまってる人の容疑を晴らしてほしかったんだろ”? そして空き巣についての情報は、その人から直接聞いてたから知っていたんだ

その時、横の押し入れからガタンと物音がした。


それはまさしく、俺の推理が正しかったと証明する福音とも言える。




菊菱は観念したようにガクリと頭を垂れると、襖が内側からスススと開けられた。

……ど、どうも〜

中から現れたのは、気弱だが人の良さそうな若い男だった。


当たり障りのない髪型に、新品だが地味なスーツを着込んだ装いは、まだ学生っぽさの抜けていない新社会人のような雰囲気がある。

平桔平

えっと……一応訊いておきますけど、菊菱さんとはどのような間柄で?

丁重にお尋ねすると、男も押し入れの中で恭(うやうや)しく正座のまま応じた。

菊菱忍

菊菱遊の兄の……菊菱忍(しのび)です

平桔平

……お兄さんでしたか

菊菱遊に妹設定が追加された。

平桔平

もしかしてあなたも、何か犯罪的特性を?

菊菱忍

はい。あまり自慢できることではないのですが……空き巣予備軍です

平桔平

そういうことか……

ここでようやく全貌が明らかになった。

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77|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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