相手がひるんだ隙を狙って、俺はリビングの入り口に向かって駆けた。


開け放たれた扉からは、一直線に玄関まで廊下が伸びている。


外へ出れば、大声で助けを呼べる。


俺は男の脇をすり抜けて、リビングから廊下へ──

いきなり乾いた破裂音がしたかと思うと、扉の一部に小さな穴が穿たれた。


恐る恐る後ろを振り向くと、男はその手に回転式(リボルバー)の拳銃を構えていた。

逃げるなよぉ。クソガキ

殺意と怒りが入り混じって大分質は変わっていたが、その声には聞き覚えがある。


Dクラスの人間ではない。


男は銃を構えたまま、ゆっくりと覆面を脱ぎ取った。

平桔平

そんな……どうして?

侵入者の正体は──あの若い警官だった。




事件当初から親切にしてくれて、警察署でも気さくに話した、あの……。


彼は額から流れる一筋の血を拭いもせずに、憎悪に血走った目を向けた。

警官

言っただろうが……危機感を持てって。なのにどうしてお前は、こうやって僕に殺されようとしているんだ?

平桔平

は、はあ?

言ってる意味が分からない。
すると警官は聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように、

警官

だから、どうして日頃から自分の身を守る準備をしないんだって訊いてるんだよ!

平桔平

………?

解読不能な言動に困惑するこちらを無視して男は一方的に、

警官

毎日毎日、テレビで殺人事件の報道もして、巡回で注意喚起もしてやってんのに、お前らみたいな平和ボケしたゴミ共はさも自分はそんな危険とは無関係みたいな顔してのうのうと生きてやがる! そのくせ、いざ被害に遭った時は、警察の対応が悪かったなんていちゃもんをつけやがって! お前らは安全が何の労力もなしに得られるとでも思ってんのか! いざという時は自分の命くらい自分で守りやがれ!

そう喚き散らした。
常軌を逸して歪みきった相貌からは最早、あの真摯な警察官の面影など微塵も見受けられない。

平桔平

だから、どうしてそんな理由で襲われなきゃいけないんだよ!?

警官

味わわせてやるためさ! 平和を貪(むさぼ)って堕落した害虫共に! あんな簡単に空き巣に入られるような無防備な姿を晒していたら、こうやって死ぬハメになるんだってな!

平桔平

うわぁっ!

警官は言いきったタイミングで、こちらに向けて銃弾を一発放った。


だが当てる気はなかったのか、弾丸は俺の足下の床を撃ち抜いただけだった。

警官

逃げるなよ。その直線の廊下だったら外す気はしないぞ

言われて後ろを振り向くと、確かに玄関までは距離がある。


男の予告通り、そちらへ逃げればわざわざ的にしてくださいと言っているようなものだ。


俺は扉を離れ、リビングの中を走った。

警官

そうだ! そうやって必死こいて駆け回れ! 命の危機を存分に味わえ!

警官は小動物をいたずらに苛める子供のように嗜虐的(しぎゃくてき)に笑い、続けざまに銃の引き金を引く。

弾丸は全て間近を掠めていくが、決して直接当てにはきていない。




どうやらこちらをとことんまでいたぶる所存らしい。


あっという間に部屋の隅に追いつめられた俺は、この危機的状況を打開する手がかりを探りながら、壁を背にして警官と相対した。

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70|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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