それは直感に近いものだった。

あるいは、危険度の高い連中と付き合っていたおかげで、そういった感じに敏感になっていたのかもしれない。


背後に、人の気配を感じた。


部屋に数歩足を踏み入れていた俺は、無意識のまま咄嗟に横の空間へ向けて飛び跳ねる。

すぐ耳元で、ひゅんと刃物が掠めた音がした。


勢いで飛んだので、俺は穴だらけの床にみっともなく転がり倒れてしまったが、どうにか膝立ちで体勢を立て直す。


どさりと落としたスーパーの袋から食糧が零れた。

平桔平

………!

見ると、俺がさっきまでいた位置に、大振りのナイフを持った人物が佇んでいた。


頭をすっぽりと覆う覆面のせいで何者かは特定できないが、体つきからして男性だ。


どうやら扉から死角になっていた箇所で俺を待ち構えていたらしい。

平桔平

お前、一体誰だ!?

問いかけるが、何者かは瞬時に理解できた。


きっとこいつは昨日俺を尾けてきた男で、俺がスーパーに出かけたほんの僅かな時間に、この部屋へ侵入したのだ。


侵入者は無言のまま、刃物を持ってズンズンとこちらへ向かってきた。

平桔平

おいおいおい! ちょっと……ストップ、ストップ!

制止の声を無視して男は前進を続ける。


そして俺の前で立ち止まると、手に持った刃物を左から右へ大きく薙いだ。

突然の非常事態に足が竦んでいた俺は逃げるように後ろへ重心を傾かせながら、両腕で顔を覆う。


右腕の肘から手首にかけ線上の鋭い痛みが走り、鮮血が噴き出した。




そのまま尻餅をついたこちらへ、間髪容れずに第二撃が加えられようとしている。

防御のために右手をかざすと、次は手の平を切りつけられた感触があった。


傷は負ってしまったものの、相手の動作は一つ一つが大振りなため、攻撃の後は隙が生じた。


その合間を縫って俺は四つん這いのまま、凶行の魔手から逃れようと必死に手足をばたつかせて距離を取る。


心音が異常に大きく鼓膜を打つ。


呼吸が浅く、口から耳障りな呼吸が漏れる。






こうなることは昨日の段階で予想できていたはずだ。

だが自分の愚かさに我を忘れていたところへ不意を突かれたことと、本物の死の恐怖に曝されて腰が引けていることが原因で、ただ闇雲に防御か回避の行動しか取れない。


そんな俺の様子を、男はただじっと観察していた。

まるでその無様な姿を観察して嘲笑っているかのように。




確かに男の行動を思い返してみると、ナイフを大袈裟に振り回すだけで致命的な一撃はまだ与えられていない。


もしや相手は、こちらをわざといたぶっているのだろうか。


覆面越しに一瞬視線を交錯させると、すぐさま侵入者は俺との間隔を詰めにきた。

いずれにせよ、このまま室内を這いずり回るだけでは殺されてしまう。


俺は相手から目を離さずに、床の上を手で弄った。


左手の指先に硬い物体が触れたので、そのままそれを掴んで目前の脅威に向け投げつける。

うわああああ!

不格好な叫び声と共に投擲(とうてき)された手の平サイズのそれは、まぐれでも見事に相手の頭部に命中した。
掴んだ物体は、人性と八重梅の戦闘で破損した机の破片だった。

ううう……

破片はそれなりの硬度だったのか、男は頭を押さえてうずくまる。




──今だ。

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69|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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