決して声量を上げているわけではない。
だが巴の声音は、ざわつく店の中でも、やたらと強く俺の鼓膜を揺らす。
決して声量を上げているわけではない。
だが巴の声音は、ざわつく店の中でも、やたらと強く俺の鼓膜を揺らす。
そして僕が全てを見抜いているという事実を、周囲の人間も薄々勘づくようになる。そこで起こるのは、巴求真という異分子の切除。……僕が小学生の頃は、学校中の人間が化物でも見るような眼差しを僕にぶつけてきました。中学に入ってからは、とうとう誰も僕を視界にすら入れようとしなくなりました。苛められもしない。なんなら、僕の目の前で苛められる同級生でさえ、僕の存在を無視していたんですから
…………
それでも僕なりに、周りと馴染もうと努力をした時期もありました。けれど、嘘だらけの対人関係に辟易(へきえき)し、人間不信になっていた僕もすでに、誰からも信用されなくなっていました。そして最終的に手にした称号が『詐欺師予備軍』。無様な末路ですよね。まさに僕らしい。……でもそんな僕を、僕達を、平さんは信頼してくれました。そしてその信頼に嘘はなかったと、僕は判断したのですが
巴はそこで、いつもの陰険な調子に戻った。
平さんが、本当は僕達を信用していなかったというなら、僕の能力もまだまだということですね。
……ところで平さんは買い物中でしたっけ。わざわざ邪魔して、長々と聞き苦しい駄弁を失礼しました。……それでは
すっぱりと言いきると、巴は何の未練もないように、よたよたと歩き去っていく。
俺は空虚に苛まれるまま、その後ろ姿を眺めていた。
巴の姿が消えた後も、しばらくの間、呆然と立ち尽くした。
……くそっ
我に返ると、舌打ちを一つ残してレジに向かう。
スーパーを早足で飛び出し、真っ直ぐに自宅を目指す。
だが勢いもすぐ消沈し、道のりの半ばまで来た頃には、悄然としてどうにか一歩一歩を踏みしめるのがやっとだった。
両手に持った荷物がやたらに重く感じ、中に詰め込まれた食品のチープなパッケージにすら苛立ちが募った。
くそ、くそ、くそ……
歩いている間も、ひたすらに安物の罵声を吐き捨てていた。
コンクリの地面に、薄汚れた塀に、林立する電柱に、そして何よりも自分自身にぶつけるために。
この胸を圧し潰す罪悪感はなんだ?
この自分への失望感はなんだ?
……違う、本当は分かっているはずだ。
俺が自分に業を煮やしているのは、一時の猜疑心に揺さぶられてあいつらを理不尽に差別し、迫害してしまったからだ。
確たる証拠もなく、ただ疑わしいというだけで口汚く罵り、敵視する。
あいつらは今までそういう目に遭ってきたから、「ここしか居場所がない」と言ったんじゃないか。
あんな表情を浮かべたんじゃないか。
分かっていたはずなのに、俺は……、
──ただの、最低な人間じゃないか。
自己嫌悪から生じる倦怠感にも襲われて、マンションに到着する頃には、歩いて数分ほどの距離が、たっぷり三〇分もかかっていた。
くそっ……
玄関に到着すると、もう一度自分に悪態をついて、扉を拳で叩いた。
そんなことで詫びることなんかできやしないと分かっているのに。
扉を開け、気力に乏しい歩幅で廊下を歩く。
そして、リビングに入る。
──ん?
それは直感に近いものだった。