だがこちらの強固な無視に諦めがついたのか、ようやく口を閉じた……と思ったが、それは勘違いで、詐欺師予備軍は攻撃の質を変えてきたのだった。


俺が棚のカップ麺を取ってかごに入れると、

巴求真

あ、それ食べちゃうんだ〜

おにぎりを入れると、

巴求真

ふーん、そっち食べる人なんですね〜

総菜のパンを入れると、

巴求真

あちゃー、それいっちゃうか。もうどうしようもないやこりゃ

平桔平

──うるっせぇな! いちいち口出しすんじゃねえよ!

俺の忍耐の敗北だった。


巴は可笑しくてたまらないという風に腹を抱えている。

巴求真

ムキにならないでくださいよぉ。僕はただ、平さんがネガティブな情報を聞いて食品を口にしたら、体調に影響するかどうかを調べたかっただけなんですから

平桔平

くだらねえ実験をしてんじゃねえ!

たかがスーパーの食品選びで、ノーシーボ効果の検体になどされてたまるか。

巴求真

それはさておき……菊菱さんはお元気でしたか?

平桔平

……何だよ、いきなり?

いきなり放られた問いに一瞬返答に詰まったが、俺は直感的にその底意を察した。

平桔平

もしかしてお前、あいつのこと好きなの?

だが言われた巴は心外そうに口をへの字に曲げる。

巴求真

……そういう意味ではありませんよ。ただ平さんが、僕の仮説を話してしまってないかと思って

仮説とは当然、学校についてのことだ。


俺は思わず、普通に会話を続行してしまう。

平桔平

直接は話してないけど……あいつもお前らみたく、学校の不自然さに勘づいてるんじゃないのか?

巴求真

いいえ。菊菱さんが恐れているのは僕達だけで、学校自体には何の疑いも抱いてません。あの人、能力の割に今一歩考えが及ばないところがありますから

平桔平

確かに少しぼんやりしてる印象はあるけど、『話してしまっていないか』って?

巴求真

そのままの意味ですよ。なるべく菊菱さんにはあの仮説は伝えずにお願いします。余計に混乱を招くだけですし。所詮(しょせん)あんなものは、僕の独りよがりな邪推でしかない

平桔平

でも、全員の総意っぽく感じたけど

巴求真

あの場でこそシリアスな空気にはなりましたが、実際は八重梅さん以外は『もしそうだったら嫌だ』くらいにしか思っていませんよ。人性さんに至っては興味すらなさそうですし。単に僕はこの能力のおかげで、いちいち勘繰るのが性になってますから、あらゆる事象をネガティブな方向へ捉えてしまうんです

平桔平

…………

なぜか巴は笑みを零さなかった。


そこからさらに、らしくない台詞を続ける。

巴求真

とにかく、菊菱さんが家に籠ってしまったのは僕達の責任です。互いに理解を深める機会があればよかったのですが、如何せん僕らは不器用ですから、まともにコミュニケーションも取れませんでした。そんななかで、現実では無防備な菊菱さんが怯えてしまったのもまた必然だったのかもしれませんが

平桔平

──嘘だろ?

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66|五日目 真相犯明―しんそうはんめい―

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