というのも、やはり巴が語った仮説の影響が大きい。




菊菱が彼らと同じ発想に至っているのかは不明だが、もし巴の話が万が一にも真実だとすれば、学校側が菊菱を登校させたいのは自分達の利益のためであり、彼女の身の安全など考慮していないことになる。


そうなるとこの小柄なハッカー予備軍を、みすみす学校へ渡してしまうのも気が引けてしまう。


またそうでなくとも、無力非力という共通点を持つ俺は、菊菱がDクラスに恐怖を抱く気持ちが痛いくらいに分かる。

クラスの奴らに暴走を抑えるよう呼びかけても簡単にはいかないだろうし、そもそも抑えるつもりすらない奴だっているんだ。




以上を踏まえると、彼女の取った選択は案外ベストと言えるかもしれない。

菊菱遊

逆に、訊きたい

平桔平

ん?

思考が学校復帰の正否にまで及んだあたりで、菊菱が囁くように言った。

菊菱遊

平は、どうしてあんな連中と行動を共にできるの?

平桔平

それは……だって、お前があいつらの協力を得ろとか言ったんだろ

菊菱遊

それはあくまで犯人逮捕のために必要だから。でも平の話を聞いてると、やたらあの化物達に感情移入している

平桔平

そんなことはないと思うけどな……。それに菊菱が思うほど、あいつらは害意のある集団じゃないと思うぞ

菊菱はぶんぶんと首を横に振った。

菊菱遊

あいつらは、信用できない。だって犯罪者予備軍だから

平桔平

お前もだろ……

クラスの奴らを擁護したかったが、彼女が拒絶して会話が平行線を辿る様子がありありと浮かび、俺は適当なタイミングで話を打ち切った。


とにかく無理に説得もできない以上、やはり長居する必要もない。

平桔平

そんじゃ、今日はここまでだな……じゃあまた

俺がよっこらせと腰を上げると、菊菱が身を乗り出してちょいと裾を摘んできた。

平桔平

……どうした?

前回の帰り際にも妄想したシチュエーションのまさかの実現に、俗な考えも芽生えかけるが、どうにか少ない理性を働かせて行動の意図を問いかけた。

菊菱遊

……ゲーム

平桔平

え?

菊菱遊

ゲーム、しろ

菊菱はすっと立ち上がると、襖を少しだけ開けて腕を突っ込んだ。

しばらく中をガサゴソと漁ると、目的の品を掴み取ったらしく、腕を引き抜く。


手には人生ゲームのボードがひっしと握られていた。

どうやら一緒に遊んでくれということらしい。

平桔平

確かにゲームだけど、プレステとかじゃないんだな

ハッカーの遊び道具にしては、古風なハードである。

菊菱遊

そっちは一人用しかない。これなら複数でも遊べる。だから遊べ

平桔平

まあ、遊べはするだろうけど……

急な誘いに戸惑う俺を、菊菱はどこか懇願するような瞳でじっと見つめてくる。


やはりこいつも、部屋にずっと一人きりでは寂しさを覚えるのかもしれない。


特に断る理由もないので、ちょっとくらい相手をしてあげるのもいいだろう。

平桔平

分かったよ。どうせこっちもこれから暇だったし

菊菱遊

………!

俺の承諾を得ると、菊菱はほんの少し、本当に少しだけ、嬉しそうな顔をした……気がした。

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60|四日目 犯信犯疑―はんしんはんぎ―

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