俺はティッシュで口の周りを拭いてやる。


菊菱はされるがままに顔を奇麗にしてから、改めて報告を再開する。

菊菱遊

三件目から五件目の犯行から分かったことで、事件が発覚し、警察に連絡が届くまでは全て事件発生後一時間以内

平桔平

それが何かおかしいのか?

菊菱遊

通報があまりにも早すぎる。屍体(したい)は全て室内で発見され、被害者は全員一人暮らし。殺害されて音沙汰がないのを、周囲が不審に思うのに普通は早くても数日はかかる。たった一時間以内に誰が屍体を発見できたのか? そこから考えられることは一つ

平桔平

そうか。じゃあ全部の事件の第一発見者ってのが

菊菱遊

恐らく犯人。ただ警察も同じように推理したけど、通報は付近の人気(ひとけ)のない公衆電話からで、特定は不可能だった

平桔平

そうだよな……。そこまで犯人も馬鹿じゃねえよな

俺はかくんと肩を落とした。


だが、なぜ犯人は自ら通報したのか。




そこに疑問が残る。

菊菱遊

もう一つ。盗難があったにもかかわらず、室内は荒らされた形跡がなかった。なので警察は殺人については当初、怨恨によるものと見て捜査したが、その後の調べで金品が盗まれていたことが発覚。この盗難の手口が最初の二件の空き巣事件と酷似しているとして、少なくともその空き巣犯が殺人にも何らかの関与をしていると断定した

平桔平

……つまり空き巣と殺人が、同一犯によるものと判断する決め手になったってことか

菊菱は頷いた。

平桔平

で、それだけか?

もう一度、菊菱は頷いた。

平桔平

そっか……

重く、重く嘆息する。


結局何も分かってないのと同義だからだ。


事件発生から二日。




さすがにそんな短期間では、たかが高校生の行う調査なんぞで犯人探しに進展など見込めないことは十分承知しているが、頭のどこかではこの異能集団ならもしかしたら、と期待を寄せていたのもまた事実。


正直あいつらを買い被っていたのかな、と筋違いな失望感すら抱いてしまっていた。

菊菱遊

大丈夫。きっとすぐに犯人は見つかる。元気出せ

平桔平

ああ、ありがとう

命令調が気になるが、たとえ気休めでも労いの言葉が身にしみる。


ここまでの情報を頭に入れたところで、一旦俺は本来の役目に気持ちを切り替える。

平桔平

菊菱。お前、学校に来る気は

菊菱遊

ない

食い気味で即答だった。

菊菱遊

あそこにいれば、絶命に至るのは時間の問題。だからこうして部屋にいるしかない

平桔平

うーん……

交渉役を任された身としては、二回連続で「そうですか」と引き下がるべきではないのだろうが、どうも使命感が湧いてこない。

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59|四日目 犯信犯疑―はんしんはんぎ―

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