菊菱遊

その傷は?

平桔平

……ちょっと紛争に巻き込まれて

菊菱遊

所変わって、ここは菊菱のマンションである。




あの直後、警察と彼女の間にどのような衝突があったか説明は不要だろう。

むしろ名状しがたいほどの壮絶さをもってあの怪獣は署の玄関口を蹂躙(じゅうりん)し、警察側も一時はその破壊に対抗するためSATを出動させかけるまでの騒動に発展した。


俺もあいつを力ずくで抑えようとした結果、巻き添えを食ってしまった。

菊菱遊

……でもそんな怪我でも来てくれた。やっぱり平はいい人

平桔平

そ、そうかな

どんなにへこたれても、ちょっとの励ましで元気になる単純な俺だった。


ただ経験上、女の子の言う『いい人』って良い意味だったことがないけど。

平桔平

そうだ。これ買ってきたんだけど、食べるか?

沈黙が訪れる前に、俺はチョコレート菓子の袋を出す。


この気配りの裏には、菓子でも用意すれば少しは打ち解けやすくなるのでは、という餌づけ的な目論みもあった。

菊菱遊

…………

菊菱は胡乱(うろん)げに俺の手元を見つめていたが、長考の後、すっと小さな手を差し出す。

平桔平

良かった。菊菱って意外と辛党かもなんて思ったりもしたからさ

手渡すと、彼女は袋を開いて抱え込み、一人でポリポリと食べ始めた。

平桔平

……あの

こういう場合って、二人で分け合うもんじゃないの……?


それに彼女は黙々と食べ続けているため、会話の弾む余地もない。




餌づけ策は完全に逆効果であった。


こうなればせめて味の感想でもいいから何か言ってほしい。

菊菱遊

あららいいようおうああいっあ

平桔平

は?

思いが通じたのか菊菱が何かを言った。

けれど口にチョコを詰め込みに詰め込んでいるので、完全に意味不明だ。


菊菱はしっかりとチョコを呑み込んでから、

菊菱遊

新しい情報が入った。聞け

平桔平

……本当か?

菊菱はこくりと頷いて、携帯を取り出した。


ようやく会話が始まる。

しかも早速事件に関わる内容。俺は気を引き締めた。

菊菱遊

三件……から、五件目……をあん行あら、分かっあころれ

平桔平

まず食う手を止めろ!

彼女は携帯片手にチョコをモリモリと食べていた。


しかも嚥下もしないうちに次々と口へ投入するものだから、げっ歯類の小動物のように頬を膨らませている。


とても年頃の女子高生がする食べ方ではない。

あとほら口元、チョコ塗れだ!

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58|四日目 犯信犯疑―はんしんはんぎ―

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