警官

おや、君は……

ふと、斜め前の位置から声をかけられる。


そちらを見やると、二日前に家に来てくれたあの若い警官だった。

平桔平

お久しぶりです。あの時はどうも

座ったままぺこりと頭を下げると、彼は気さくに話しかけてきた。

警官

こっちは今勤務を終えたとこなんだけど、君は盗難届かな?

平桔平

はい、本当は昨日のうちに出したかったんですけど

自宅があんな惨事に見舞われては、忘れてしまうのも無理はない。

警官

なんだ、言ってくれれば近くの交番でも出せたのに。盗まれたのは通帳と印鑑だけなんだろ?

人性悪乃

あと靴と丸時計と鍋

ごく自然に人性が会話に割り込んできた。


……その案本当に実行するとは思わなかった。

警官

靴と時計と鍋……ってそれ、別の被害者のじゃないか?

警官は一瞬素直に信じかけてしまったが、すんでのところで気づいたらしい。


生真面目な反面、天然な部分があるようだ。

平桔平

人性、警察の人をからかうなよ

人性悪乃

だって貰えるもんは貰っときてえじゃんかよ

法の番人である警察官を謀った直後だというのに、反省の色を全く見せない肝っ玉には改めて恐れ入る。


一方、警官は彼女の名前を聞くとふむと顎に手を添えていた。

警官

人性……? その髪色見てピンときたけど、君があの破壊神(デストロイヤー)人性悪乃?

人性悪乃

あ? だったら何なんだよ? あたしと潰し合いでもしてえのか?

とんでもない異名つけられてんだな……。


そして警察官相手にヘッドホンも外さず、この態度。

この女に恐れるものなどないのだろうか。

平桔平

こいつ、やっぱ有名なんですか?

警官

有名も何も、数年前から彼女が街に出没した時は、警戒レベルを二段階は上げろと忠告されてるんだよ

野生の熊かよ。

もしくは致死性ウイルス兵器とか。

人性悪乃

そこまで無茶はやってねーし。たかが器物損壊が数十件くらいだろ?

それは『たかが』で済まされる件数ではない。

警官

それだけじゃないよ。君はかつて暴行の疑いでも数回補導されてるじゃないか

平桔平

え。やっぱりこいつ、人にも危害加えてるんすか

さっきの会話からして、そこら辺の分別はついてると思ってたんだけどな。

人性悪乃

あれはあたしをキレさせたあっちが悪いんだよ

警官

キレさせたって……話を聞いた限りでは、原因が意味不明だったけどなぁ

平桔平

どんな事件だったんすか?

警官

一年半の間に計五人もの男性が、彼女に理不尽な暴力を振るわれたと警察に駆け込んできたんだ

何だそりゃ? 

もしやその男達は、よりによってこの怪物女相手に痴漢でも働いたのだろうか。


もしそうだったら無謀を通り越して、武勇伝として語り継いでやってもいい。

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55|四日目 犯信犯疑―はんしんはんぎ―

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