四日目
 犯信犯疑―はんしんはんぎ―

鳥居笹千流

桔平君、おはよう。疲れが溜まってるだろうし、無理しないで休んでて。後片づけはきちんとやっておくから安心してね。規理ちゃんと悪乃ちゃんを止められなかった罪滅ぼしになるかは分からないけど。……えへへ、「お前は元々罪な女だろ」って、照れるなぁ。でも桔平君だって、私の心を奪って、恋の炎を燃え上がらせて、いつの間にか私の頭の中を埋め尽くしてるから、窃盗と放火と不法占拠で現行犯逮捕だよ? 判決は無期懲役。私と一生幸せな家庭に服役すること。……あ、もしかしてつまらなかったかな。ごめんね。……え、「それは冗談じゃなくて事実なんだから笑うわけないだろ」って……。そ、それじゃあ、私とずっと一緒に

平桔平

てめえは一体誰と会話してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

間違いなく世界最悪の目覚めを約束してくれる鳥居笹千流特製目覚ましを、怒声を発しながら壁にぶん投げて俺の朝は始まった。

記念すべき第二弾は妄想の平桔平とのトーク付き。

たかが目覚ましの録音でどうしてここまで盛り上がるんだ。

あと鳥居笹の中の俺ってどんなキャラなんだよ。


……だが、今はこれ以上ツッコミを入れる気力が湧かない。

俺は寝室から出てリビングへと恐る恐る近づいていく。

そこに通じる扉を開けると昨日の惨たらしい光景が嘘のように消えて元通りに──なんて夢物語はない。

平桔平

……はあ

覚悟はしていても、現実は人に対して常に過酷だ。


予想した通りに、いやむしろ一晩置いたせいか、より悲痛な印象を伴って、戦場跡は視界の隅々まで広がっている。

とても二人の可憐な女子高生の仕業とは思えない。

可憐と言えば戦地に咲く花一輪。


穴だらけのフローリングの床に横たわっている華奢(きゃしゃ)なふんわり美少女が一人。

鳥居笹千流

……あ、おはよう。桔平君

平桔平

おはよう、鳥居笹

目覚ましの録音にもあった通り、騒動が終わった直後、ショックのため寝込んでしまった俺に代わって、彼女は率先して後片づけをしてくれたようで、作業は今しがたまで続いたようだ。

おかげで足の踏み場もなかった散らかりようも、多少マシにはなっている。


ストーカー女と一晩を共にするのは色んな意味で気が気でなかったが、ここまでやってくれたのに不満を垂れるのは、無礼を通り越して無粋と呼ぶべきだろう。

挨拶を交わすと、彼女は床に手をついてよろよろと起き上がろうとした。

鳥居笹千流

ごめんね、寝坊しちゃった。……今すぐ朝ご飯作るね

平桔平

いいよいいよ。お前は休んどけ

無理矢理微笑みかけようとした目元にも、疲労の色がありありと見てとれる。


それなのに朝食まで用意しようとか……お前、健気すぎだろ! これで個人情報収集とかしなかったら完璧なのに。

鳥居笹千流

そっか……じゃ、お言葉に、甘、え……て

そのまま鳥居笹は床の上に倒れ伏して、すうすうと寝息を立て始めた。


こちらとしては献身的に振る舞った彼女が風邪を召してしまうのも嫌なので、そっと寝室にあった毛布をかけてやる。


こうして寝顔だけ眺めてりゃ可愛いんだけどな。

鳥居笹千流

桔平君の部屋を満遍なく掃除……えへへへ

……こういうところがあるから今イチ好きになりきれないんだよ。

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50|四日目 犯信犯疑―はんしんはんぎ―

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