平桔平

盗んだ物を持ったまま出てくるって言ったけど、よくそれで今まで捕まらなかったな

菊菱遊

正面で堂々としていれば、他人からすれば家の関係者だと思う。逆に荷物を抱えて窓辺や裏口でこそこそとしているほうが怪しまれる。理には適った行動

平桔平

なるほどな。そういう手口で金目の物を奪い取ってたってわけか

だが菊菱が首を横に振った。

今のどこに否定すべき要素があった?

菊菱遊

その犯人は初めから金品を盗んでいたわけではない

平桔平

え? じゃあ何盗ってたんだ?

菊菱遊

最初は履き潰した靴。二件目は壁掛けの丸時計。殺人が発生しだした三件目から、鉄鍋プラス通帳、印鑑、現金、それ以降は純粋に金品のみへと盗品が変遷している

平桔平

何だそりゃ? 金を盗むなら分かるけど……最初の二件までは大して価値もなさそうな品しか盗んでないのかよ。三件目でも鍋とか盗っちゃってるし

菊菱遊

そう。特に靴と時計に関しては盗まれた本人ですら気づくのに時間がかかった。三件目では殺害されてしまったけれど

平桔平

もしかして盗んだ奴にしか分からない価値があったとか……?

菊菱遊

あるいは自分の腕前に酔って金目の品にも手を出し始めた、とも推測は可能

そして挙げ句の果てには人殺しか。


だがそれらを踏まえるとこの犯人は八重梅が想定したような『強盗殺人』的な犯罪特性を最初から持ち合わせていたのではなく、あくまで後天的に殺人欲求を膨らませていったとも考えられる。

平桔平

……それにしたって、その目撃した奴ってのはそいつが空き巣犯だって疑わねえもんなのかな?

よく世間で嘆かれている、我関せずの精神なのだろうか。

俺も同じことをしないとは断言できないが、空しい気持ちが生じるのもまた否定しきれない。


疑問の方向性が変化したのに面食らったのだろうか、菊菱はなぜか少し狼狽している。

菊菱遊

きっと、さっきも言ったように、見た時は本当に家の人だと思い込んだ。そして後々侵入者だということを知った。……それで、辻褄(つじつま)が……きっと合う

平桔平

……そんなもんかな

いやに懸命に擁護するので、俺もしぶしぶ納得する。

情報提供者を気遣っているのだろうか。

菊菱遊

とにかく、必要な情報は与えた。平はそれを使って一刻も早く犯人を追いつめろ

平桔平

まだ捕まえるとは言ってないけどな

菊菱遊

クラスの異常者達がいれば大丈夫

異常なのに大丈夫と断じるのはいささかの矛盾も感じるが、彼女は一年間も共にいた経験がある分、Dクラスの能力自体には一定の評価を下しているのだろう。

菊菱遊

他に用件はある?

平桔平

一応聞いとくけど、学校に来る気はあるのか?

菊菱は首をぶんぶんと横に振る。

平桔平

だったら、用件はそれだけだ

菊菱遊

…………

沈黙を返されて俺は立ち上がる。


これ以上いても、互いに閉塞した時間が続くだけだ。

相手にも気を遣わせたくはない。


こちらを特に引き止めるでもなく、菊菱は俺が帰宅の準備をしているのを、その場に座り込んでじっと見つめている。

……ちょいと服の袖でも摘んで淋しいアピールでも披露してもらえないかな、なんて淡い下心もあったが、幸か不幸か、ただの妄想で終わりそうだ。

平桔平

そんじゃ、またな

別れの挨拶を告げて玄関に向かうと、ほんの微かだが、それでもはっきりと菊菱の言葉が耳に届いた。

菊菱遊

……楽しかった

……訂正。


ちょっとくらい期待はしても損はないかも。

照れ臭い思いを隠しながら俺はドアを開く。

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48|三日目 御凶力申出―ごきょうりょくのもうしで―

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