もしかしてあまりの図々しさに怒らせてしまったか、と不安もよぎったが、俺がゆっくりと頭を上げると、菊菱は澄ました様子で立ち上がった。




そして横の押し入れの前に行き、襖(ふすま)を少しだけ開いて腕を入れる。


しばらく中を漁ってから腕を引き抜くと、その手にはラップトップ型のパソコンが握られていた。

菊菱遊

……こうして取り出さないと布団が雪崩落ちる

平桔平

……そうか

どこか言い訳めいた説明に同調してやると、間髪容れずに菊菱はパソコンを開いてパチパチとタイプする。

驚くべきことに人差し指だけでの高速タイピングである。

眺める側としては微笑ましいやら滑稽やら、といった心情だ。


だが形はどうあれ、菊菱の協力を仰ぐことには成功したらしい。


てっきり口もきいてもらえなくなるかもしれないと危惧していたので、ほっと胸を撫で下ろす。

平桔平

そういえば菊菱の技能ってどれくらいなんだ? 設備さえあればファイヤーなんちゃらっての破れんのか?

菊菱遊

そこまでは不可能。犯罪者予備軍というのは将来的な危険性を持った人物を指す言葉。いずれはその段階にまで達してしまうかもしれないけれど、現時点の知識や技能レベルでは政府機関等ネット防衛環境の整った施設へのクラッキングは困難

平桔平

へー、そうなのか

我ながら野次馬じみた阿呆丸出しの問いだったが、菊菱は真面目に答えてくれた。

比較的良識はあるという八重梅の人物評は間違ってはいないようだ。


俺の学校生活の安寧のためにも早急な復帰を望む。

菊菱遊

……見つけた。凶悪な事件をまとめる裏サイトに、今回の件に関わる記述がある

平桔平

お、どれだ?

俺が画面を覗き込もうとするが、彼女はパソコンの蓋を半分ほど閉じてしまう。

菊菱遊

見るな変態。読み上げるから聞け

平桔平

……悪い

えらく邪険にされてしまった。


どうやら彼女なりに拘(こだわ)りがあるらしい。




それに妙に威圧感があったので、素直に俺は退いた。

菊菱は少しだけ間を置いて、極めて淡白な調子で語りだした。

菊菱遊

複数の目撃情報。空き巣犯は犯行の際、手ぶらで侵入しているらしく、“盗んだ品を堂々と手に持ったまま”玄関から出てくる。この辺りで被害が出てるのは全部で五件。被害に遭ったのは老若男女違いはあるものの、全員が一人暮らし。最初の二件はただの盗みだったが、後の三件では殺人も犯している

そこまで言うと菊菱はふう、と一息ついた。


あまり話し慣れしていないのか、その文章量でも彼女にとってはそれなりの負担だったらしい。


少し休憩を入れて俺は気になった点を指摘する。

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47|三日目 御凶力申出―ごきょうりょくのもうしで―

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