今こちらが抱える問題は一つ。
どのようにして菊菱遊に事件の情報収集を頼むか、である。
普通だったら、昨日八重梅の凶刃(きょうじん)から身を守ってやった恩を振りかざしでもすれば、二つ返事で承知してくれるだろうが、目の前にいるのは普通の概念からはほど遠い犯罪者予備軍で、それに引きこもりだ。
下手に頼みごとでもすれば、機嫌を損ねて面会謝絶なんてことになりかねない。
俺の元々の仕事は学校復帰への説得なのだから、そうなるのは避けたい。
……かといって、俺には遠回しに力添えを請うような器用な話術もない。
そもそもこいつとは昨日が初対面で、まともに会話するのは今日が初めてといってもいい。
なのにいきなり一般人という理由で交渉役を任され、おまけに強盗殺人事件についての情報収集も頼まなければならない。
転校してたった三日でこんな重責を負わされるとは思わなかった。
途方に暮れて、ただ飲み干したコップの底に溜まった茶葉を見つめる。
未だに両者微動だにせず、まるで自分が煮凝(にこご)りにでもなってしまったかのような感覚に陥った。
ヤバい。
とりあえず何か話さないと。