今こちらが抱える問題は一つ。


どのようにして菊菱遊に事件の情報収集を頼むか、である。

普通だったら、昨日八重梅の凶刃(きょうじん)から身を守ってやった恩を振りかざしでもすれば、二つ返事で承知してくれるだろうが、目の前にいるのは普通の概念からはほど遠い犯罪者予備軍で、それに引きこもりだ。


下手に頼みごとでもすれば、機嫌を損ねて面会謝絶なんてことになりかねない。

俺の元々の仕事は学校復帰への説得なのだから、そうなるのは避けたい。

……かといって、俺には遠回しに力添えを請うような器用な話術もない。




そもそもこいつとは昨日が初対面で、まともに会話するのは今日が初めてといってもいい。

なのにいきなり一般人という理由で交渉役を任され、おまけに強盗殺人事件についての情報収集も頼まなければならない。


転校してたった三日でこんな重責を負わされるとは思わなかった。




途方に暮れて、ただ飲み干したコップの底に溜まった茶葉を見つめる。

未だに両者微動だにせず、まるで自分が煮凝(にこご)りにでもなってしまったかのような感覚に陥った。


ヤバい。


とりあえず何か話さないと。

平桔平

あの、菊菱

菊菱遊

何かあった?

こちらが口を開きかけた瞬間、彼女に機先を制された。


何気に核心をついた問いかけだったので、思わずびくりと過剰反応してしまった。

平桔平

なっ……確かにそうだけど、なんで分かった?

菊菱遊

……なんとなく

平桔平

そ、そうか

GPS追跡と一緒に盗聴でも行っていたのかと心配になったが、そうではなく、ただの勘らしい。


よほど俺の挙動が不審に見えたのだろうか。

菊菱遊

それで何があった、説明しろ

平桔平

あ、ああ、えっと……

菊菱は会話に時折、命令調が混じるようだ。


俺は昨日の空き巣の件、そしてそれについて今日、弦巻達と論じた内容を簡潔に伝えた。

菊菱遊

…………

全てを語り終えた後、菊菱はまた無言の状態になる。


俺は会話が途絶えるのを恐れるあまり、そのままつい本来の目的を口走ってしまう。

平桔平

そんで……実はもっと情報を手に入れるのに協力をお願いしようと思ってたんだ。菊菱はハッカー予備軍なんだろ?

菊菱遊

……正確にはクラッカー。でもどちらの呼び名でもかまわない

平桔平

そこら辺の詳しい違いは知らないが……菊菱が良ければ、ほんの少しだけでも力を貸してくれないか? お互い知らない者同士で、一方的な頼みごとをできる立場ではないのも、十分承知の上なんだけど……頼む

俺は机に額を擦りつけるように頭を下げる。


もっと慎重に話を進める予定だったが、一息に協力の依頼までこぎ着けてしまった。

菊菱遊

…………

再度、沈黙。

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46|三日目 御凶力申出―ごきょうりょくのもうしで―

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