午前中からの弦巻と鳥居笹の来訪を皮切りに、巴、人性、そして八重梅が予告もなしに俺の部屋にやってきて、好き放題に過ごしている現状である。

巴が愛用のニット帽にカッターシャツと赤のチノパンという思いがけず明るめカジュアルな着こなしだとか、ロングTシャツに紺のジーンズを履きこなした人性の脚線美が半端ないとか、各人の私服の感想でも述べていきたいところだが、今は冷静にファッションチェックなどできる精神状態ではない。


部屋の主の訴えにもDクラスの面々はうるさそうに顔をしかめるが、弦巻だけは澄まし顔でゴロンと寝返りをうった。


ちなみにこいつはグレーのロゴ入りパーカにイエローグリーンのカーゴパンツというラフなスタイル。

……なんかメチャ似合っててムカつく。

弦巻藤吾

だーって桔平ちゃん昨日ヤバいことがあったんでしょ? クラスメイトのピンチに駆けつけないなんて男がすたるってもんだぜ

平桔平

駆けつけて遊んでんじゃねえか

俺は犯罪者予備軍団に一人ずつ視線を滑らせながら、最後に膝丈の空色ワンピースの上に淡色のエプロンをかけた鳥居笹を視界の中央に収める。


そういやお前もお前でなにおやつなんか出してんだ。
すっかり我が家の住人気取りである。

彼女は俺の苛立ちを察して、もじもじと弁解を始めた。

鳥居笹千流

え、えと、盗みについてなら、弦巻君が詳しいかなって思って……

平桔平

それで、無断で俺の部屋に呼んだってか

鳥居笹千流

ご、ごめんね。ここが一番落ち着いて話せる場所だったから

平桔平

どうして一番落ち着くとこが他人の家なんだよ……

逆にお前の家に行ってみてえわ。

それ言ったら多分狂喜するだろうけど。


こちらの詰問(きつもん)にオロオロと戸惑っている鳥居笹に、横から不要な助け舟が出された。

弦巻藤吾

でも、グッドアイデアだったぜい。俺くらいの達人になると、万(よろず)の盗みに精通してっからねーん

ハイテンションで親指をグッと立てる弦巻。

こちとら逼迫(ひっぱく)した財政の只中だというのに、このスリはクッキーを頬張りながらなおもお気楽そうだ。

平桔平

じゃあお前、犯人捕まえられんのかよ?

弦巻藤吾

無理っしょ

平桔平

即答かよ!?

達人、諦めが速えよ。

弦巻藤吾

だーかーら、皆で力を合わせようって考えたの。なあ求真ー?

巴求真

言っとくけど、僕は暇だから来ただけですよ。平さんに何が起きたのかも知りません

休日モード全開のだらけっぷりでぶっちゃける巴は、気怠(けだる)そうに漫画のページを繰っている。

そこに人性がゲーム機をいじりながら「あたしも」と続いた。

人性悪乃

今日もゲーセンか映画館でも行こうと思ってたけど、昨日こいつが馬鹿やってあの辺りでブラックリスト入りしちまった。マジでボウシットって感じ

全身のボディラインに緩くフィットした彼女の服装は、モデル顔負けのスタイルを見事に引き立たせており、そっちを向くと正直目のやり場に困る。

……あと結構胸のボリュームあるな。


そんな見た目も中身もダイナマイトな人性の愚痴に、丸襟の白ブラウスにスカート、頭には梅の花のヘアピンといったいかにも良家のお嬢様風コーデの八重梅が不本意そうに口をへの字に曲げた。

八重梅規理

私はただ、あなたが興奮してゲーム機を破壊して回ったのを止めただけよ。ちょっと分が悪くなったからって、あそこまで怒りだすなんて……相当、精神年齢が低いのね

人性悪乃

お前も刀振り回して機械ズタズタにして回っただろが

結局二人共大暴れしたのかよ。


そこまでのことやらかして、どうして警察沙汰になってないんだ?

平桔平

……でもここにいるってことは、お前も暇なのか? 八重梅

暇と聞いて、人性との対戦に区切りをつけた八重梅は、粛々と居住まいを正した。

八重梅規理

勘違いしないで。私はここに問題児が勢揃いすると聞いたから、委員長としてあなた達を見張りにきたのよ。決して暇だったわけではないわ

ぴんと背筋を伸ばした姿勢で語る彼女に、弦巻が茶々を入れる。

弦巻藤吾

そーんなこと言っちゃってー。俺達が楽しそうなことしてっから、規理ちょんも混ぜてほしかったんでしょー? このツンデレー

真面目が取り柄の委員長は、お調子者の軽口を受け、そっと眉間に皺を寄せた。

八重梅規理

……いちいち余計な口を挟まないで。私はただ、自分の務めを果たそうとしているだけよ

だが相変わらず弦巻はそんな敵意など無視。

順調に悪ふざけのペースを上げていく。

弦巻藤吾

そういや規理ちょんもうすぐ誕生日だっけ? 丁度いいから今日皆で誕生日パーティーしちゃう?

巴求真

いいですねぇ、日頃の慰労も兼ねて盛大にやりましょうよ。プレゼントは用意するの忘れちゃいましたけど

八重梅規理

なっ……

お馴染み最悪コンビの攻勢に、八重梅は明らかに冷静さを欠いた様子で傍(かたわ)らに置いた刀を触りだす。

八重梅規理

ちょ、ちょっと待ちなさい。それじゃまるで私が孤独に耐えかねて、平君の家にお邪魔したみたいじゃない。私だって誕生日を一人で過ごす精神力くらいは備えているわ

平桔平

切ない精神力だな……

底意地の悪い連中に誘導され、痛ましい一面を明かしてしまう大和撫子だった。


迂闊(うかつ)に口走ったプライベートに、はっと気づいた八重梅は、焦燥に目を泳がせながら必死に言葉を紡いでいく。

八重梅規理

平君、『切ない』なんて縁起の悪い語彙を使用しないで。私はもっとKILL(キレ)のある言葉を、その、ええと……

いつもの切れ味鋭い言い回しも、隠しきれぬ動揺のせいでどこか物悲しさすら感じさせる。

なんだろう、急に八重梅がただの可哀想な人に見えてきた。

人性悪乃

なっさけねえの。誕生日の過ごし方くらいでパニクりやがって

人性がケラケラと哄笑(こうしょう)するが、こいつも祝ってくれる人は皆無だと思う。

外見的には一番パーティーとかしてそうだけど。


戸惑う八重梅を、エプロン姿の鳥居笹がふんわりと慰める。

鳥居笹千流

ごめんね規理ちゃん。今は桔平君が大変だから、今度ここに招待した時に改めてお祝いするね

弦巻藤吾

お、そりゃ名案。そん時は桔平ちゃんとちるるが二人で台所に立つのかな?

鳥居笹千流

え! そ、そんな、新婚さんみたいなこと……えへへへ

平桔平

住人の存在を無視して話を進めるな

あと妄想も捗らせるな。

手も繋いだことないだろうが。

八重梅規理

皆しばらく、私を放っておいて……

無許可でのお誕生日会開催の是非を語らう横で、八重梅はどよんと負のオーラを発しながら体育座りで膝に顔を埋める。


鳥居笹はその肩に優しく手を添えて、

鳥居笹千流

元気出して規理ちゃん。桔平君の誕生日も四月だし、どうせなら一緒にやろうよ

平桔平

だからなんで知ってんの!?

俺がストーカーに戦慄(おのの)いている間も、弦巻と巴はだらだらと漫画を流し読みしていた。

弦巻藤吾

そういや話が大分ズレちったけど、本題は何だったっけー?

LINK

34|三日目 御凶力申出―ごきょうりょくのもうしで―

facebook twitter
pagetop