ここからのバスは学校付近としか行き来しないため、帰りの交通手段は電車になる。
なので俺達は近くの駅を目指して歩いていた。
ここからのバスは学校付近としか行き来しないため、帰りの交通手段は電車になる。
なので俺達は近くの駅を目指して歩いていた。
……ごめんなさい、平君。ついぶちKILL(ギレ)てしまったわ。それにまた菊菱さんに酷いことを、ああ……
最寄り駅までの道のりを辿る間、ようやく刀を返してもらった八重梅は顔を両手に埋めながら、開口一番、謝罪の言葉を口にした。
本当だよ、八重梅。お前もしかして、人性よりも危ないんじゃねえの?
返す言葉がないわ……
でも余興としては楽しめましたけどねぇ
よたよたとした歩調で前を行く巴が、項垂(うなだ)れる彼女をせせら笑う。
お前もお前で、助けにもこなかったろ
そーだなー、あれはちょいと俺も引いたぜー、求真
弦巻も相方の対応に不満を露(あらわ)にした。
僕は極力面倒事には関わらない、中立のスタンスを取るようにしているんです。この能力は場合によれば、不都合な真実まで暴きかねませんから。触らぬ神に祟りなしってやつですよ
全能感に満ちた謎の信条だ。
見た目は中坊のガキのくせに、えらく達観している。
でさー、神視点から見てた求真は、遊っちが引きこもった理由について何か分かった?
すると巴は不気味に口元を歪ませる。
菊菱さんは嘘をついてます。……というより、何かを隠してると言ったほうが適切ですね
マジ? 何だよー、隠し事って?
それは存じ上げませんよ。僕はただ嘘かどうかを判別できるだけで、相手の思考そのものを読めるわけじゃありませんし
……それもそうだな
俺はかくんと頭を垂れた。
なにせ明日から菊菱のマンションに通い詰めなければならないのだ。
それまでに不登校の原因の一つでも明らかにしたいところだったのに。
……ん?
ちょっと待て。
これは捉えようによっては、女の子の家に堂々とお伺いする権利を手にしたとも言えるんじゃないか?
それも相手は比較的ノーマルな思考の内気な無表情系美少女。
おいおいおいおい。
ちょっとそれは熱いシチュエーションだぞ。
熱心に説得する俺に段々と菊菱が心惹かれて、あれやこれやな展開になって、学校復帰した時にはもう手とか繋いじゃってるパターンじゃね?
そんでそれを見た鳥居笹がヤンデレ化して俺の家に包丁持って侵入したりして……あれ、このルート、バッドエンドしか用意されてない……。
俺は決して彼女の純潔を汚さないことを自分の胸に誓う。
貞操観念が妄想によって引き締まるというのも稀なケースだろう。
うっわー、結構でかめのゲーセンあんじゃん。ちょっくら遊んでかね?
駅前の繁華街を通っていると、チカチカと光る電光掲示板を弦巻が指差した。
駄目よ。下校途中の寄り道は校則違反だわ
はしゃぐ弦巻を八重梅が注意した。
さすが委員長。
気が萎えていても生徒の模範たる心構えは揺らがない。
しかし弦巻も食い下がる。
えー、少しくらいならいいっしょ? 俺達がこうやって揃うのも珍しいんだしさー。交流深めようぜ
そんなもの学校で深めればいいじゃない。ただでさえ問題児の私達がこんな場所で校則を破ったと知られたらどんな罰が下るか、少し考えを巡らせれば分かるでしょう?
問題児だからこそ、こういうトコで遊んで普通の高校生らしさを見せつけてやりゃいーじゃんかー。むしろ真面目くさって黙々と学校生活送るほうが気味悪がられるべ?
八重梅はこの論に「む」と言葉を詰まらせた。
確かに弦巻の言うように、普通に馴染むためには多少のやんちゃも必要悪と言えるだろう。
……全く、屁理屈に関しては口が回るのね。仕方ないわ、ほんの少しの間だけよ
八重梅は逡巡(しゅんじゅん)の末に許可を出す。
きっと菊菱宅での暴走の負い目もあったのだろう。
あ~……乗り気になっているところ心苦しいんですが、僕はこのまま帰ります
え?
意外にもここで巴が帰宅を選んだので、俺達は目を丸くした。
なんだよ、用事でもあんの? 少しぐらい遊んでけよー
特に理由はないんですけど……ちょ~っと嫌な予感がするもんで。ですからどうぞ三人で楽しんできてください
? 乗り気じゃないなら、別に強制はしないけど……
弦巻も巴については無理に引き止める気もないようで、頭にクエスチョンマークをのせながらも、そのまま別れを告げ、彼の背中が小さくなっていくのを見送った。
だが巴の嫌な予感の意味は、すぐに俺達の理解するところとなる。