八重梅規理

そ、それはあなたが授業中にパソコンをいじったりしていたから……

八重梅は慌てて自己弁護を始めるが、菊菱は半眼のままだ。

菊菱遊

ただ授業中、気になった単語を調べていただけ。なのに八重梅は、問答無用でスパッと

平桔平

……斬ったんだな

当時の光景が容易に想像できた。


目の前で愛機が十六等分されるのは確かに慄然(りつぜん)とするだろう。

菊菱遊

……だからもう、あの空間にはいたくない。あと八重梅の顔も見たくない

残念ながら菊菱の言い分は正しい。

唯一の強みである電子機器を失えば、彼女はただの華奢(きゃしゃ)な女子高生でしかないのだから。


今思ったのだが、こういった内輪揉めに発展する危険性を教員達は考慮していないのだろうか。

あるいはまだ実験的な段階で、多少手探りで運営してる部分もある、とも推測できるが。


断固として拒絶の意を表す菊菱に、八重梅はならばと自信をもって提言する。

八重梅規理

安心して。もし私があなたをKILL(斬り)つけたくなった時は、平君を代理に立てることを許可するわ

平桔平

俺の生存権は!?

とんでもねえ対策だ。

お前が我慢するって選択肢はないのか。

菊菱遊

……なるほど

平桔平

お前も乗り気!?

こいつら命の尊さを全然分かってねえ。

学校側はまず道徳倫理を徹底させろよ。

菊菱遊

……でも、やっぱり信用できない

身代わり案はさておき、結局のところ彼女は八重梅達に対する不信を払拭(ふっしょく)できないでいるようだ。


そしてその流れで菊菱は、上手く交渉を進められない委員長に向かって、これまで溜まっていた鬱憤を吐き出していく。

菊菱遊

そもそも八重梅は加害者のくせに、全く誠意を感じない。本当に私に復帰してほしかったら、きちんと頭を下げるべき。八重梅は普段から偉そうで、問題を起こすなと口うるさい割に、自分が一番怒りを制御できていない。その刃と一緒で、やること為すこといちいち薄っぺらい。きっと八重梅は、脳みそまで砥石でピカピカに磨かれてる

おお、この小娘、なかなか上手いことを言うな。


ヘイヘーイ、八重梅さん、言われちゃってますよー。びしっと言い返さなくていいんですかー?

八重梅規理

…………

あ、あれ……八重梅さん?

菊菱の暴言混じりの文句を聞いた途端、八重梅が無表情のまま黙り込んだ。

そのまま不穏な沈黙につられて辺りの空気が重く、身を切り裂くように鋭さを増していく。


委員長の急変を敏感に察して、菊菱は色白の顔をさらに蒼白にして部屋の奥へ後ずさった。

平桔平

お、おい、八重梅

八重梅規理

──断ちKILL(斬る)

彼女がポツリと囁いて、竹刀袋に入れられた刀の柄を握った瞬間、剣閃が空(くう)を奔(はし)る。

そして目にも止まらぬ速さで剣を鞘に収めた時には、すでにドアのチェーンが切断されていた。

そのままドアを開け放ち玄関に踏み込んだ八重梅は、廊下の奥でうずくまる菊菱に土足のまま接近し、今度は本格的な居合いの構えを取った。

八重梅規理

……そこまで言うんだったら、その薄っぺらさのKILL(斬れ)味を直(じか)に体験してみるといいわ

菊菱遊

……ひ

菊菱は小柄な体躯をさらに縮こまらせて震えていた。


さすがの彼女でも死に対する恐怖には抗いきれないようで、先ほどまでの無愛想な面持ちも怯えきったものへと変わり、目にはうっすらと涙すら浮かべている。

平桔平

ちょっとちょっと、待てって!

俺は菊菱を庇う形で八重梅の前に立ち塞がった。
この時点で生きた心地がしない。

八重梅規理

そこをどきなさい、平君。もしくはあなたも私にKILL(斬ら)れることを、文字通り切望しているというのかしら

平桔平

いやいや、斬られたくはねえし、これは明らかにやりすぎだ! まずは頭冷やして刀を置け!

八重梅規理

私の頭はいつも以上に冷え切っているわ。まるで身の周りの全てをKILL(斬り)裂いてしまいそうなくらいにね

……ヤバい。目が据わってる。これが人斬り予備軍の本性か。

八重梅規理

それでも邪魔をすると言うのなら

八重梅は一瞬の溜めを作り、

八重梅規理

KILL(斬る)

刃を振り抜く。


そこからは俺は生物の防衛本能に基づき目を瞑った。

どうやら人生の最期で網膜に焼きつけるのは、殺気に満ちた大和撫子とやけに美しく輝く刃の光となりそうだ。

弦巻藤吾

はーい、そこまでだよーん

瞑目(めいもく)の闇に、弦巻の気の抜けた声が響いた。

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25|二日目 罪難多発―さいなんたはつ―

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