八重梅規理

朝から随分と騒々しいのね。いつからこの教室は珍獣の飼育小屋になったのかしら?

大和撫子委員長、八重梅規理である。

八重梅規理

あなた達、馴れ合うのは自由だけど問題行動を起こすのだけは控えてよね。……特に人性さん、あなたまた学校の備品を破壊したそうね

丁度今登校してきたばかりの彼女は、そのまま教室の入り口から人性に向けて咎めるような視線を差し向けた。

多分、昨日の下駄箱の件を言っているのだろう。


だが、注意された本人はどこ吹く風といった様子。

人性悪乃

はっ、問題児が問題起こして何が悪いんだよ? あたしは気に食わねえことがあったら容赦なく潰すだけだ

ここまで簡潔明瞭で脅威的な持論もそうないだろう。

そしてその論理は八重梅の癇(しゃく)に障ってしまったようだ。

八重梅規理

あなた一人の身勝手な行動で私達全員が迷惑するの。連帯責任という言葉を知らないの? それにこの学校は自らの異常性を律する訓練を行うための場所よ。いつまでもそんな破壊衝動に駆られていたら卒業なんてできないわ

人性悪乃

んなもんする必要ねーだろ。うちらは全員怪物(フリーク)級なんだから他人に害を為すなり迷惑をかけるなり好きに生きりゃいいんだ。もしあたしが警察に捕まったとしたら、裁判で中指立ててやるよ

八重梅規理

……あなたがそんなだから、私達は……

八重梅がギリリと竹刀袋を握り締める。彼女が初めて見せた激情の仕草だった。


しかしそれ以上の言い争いは無益と悟ったのか、八重梅は口を閉ざし、なぜか俺のほうにつかつかと歩み寄ってきた。

唐突に不安が襲ってくる。

八重梅規理

平君。柊先生から話は伺ってるかしら?

平桔平

……何を?

彼女はついと顎を動かして、俺の背後を示した。

八重梅規理

あなたの後ろの席の子についてよ

俺は後方を振り返る。

そこには主のいない机が一つポツンと置かれていた。
だがそれに関しての連絡など受けてはいない。

八重梅規理

その席の子はしばらく前から不登校なの。だから私が今日放課後に自宅を訪問することになっているのだけれど……どうせだったら、あなたも連れていけと

平桔平

はあ? どうしてだよ?

八重梅規理

理由は私にも分からないわ。でももし断ったりしたら、処罰は自由に下してかまわないとも言われたし……。嫌ならまずは首のほうからKILL(斬り)落とすけどいいかしら?

平桔平

いいわけあるか!

『まず』の段階で首切断って順序がおかしいだろが。

刀の柄に手を添える八重梅から身を引いていると、不運にもノリ軽男が興味を抱いたようだ。

弦巻藤吾

なになにー? それ二人でデートしてこいって話?

八重梅は茶々を入れる闖入者(ちんにゅうしゃ)をきっと睨みつけた。

八重梅規理

……誤解を招くような発言は控えてくれる? ただ先生がそう指示したという話よ。変に勘繰るようだったら、そのけたたましくさえずる喉元をKILL(斬り)裂くわよ

本気で刃傷沙汰も厭(いと)わない語気だが、弦巻にそんな脅し文句は通じないようで、

弦巻藤吾

えー、信じらんないなー。もしかしたら規理ちょんが桔平ちゃんと二人きりになりたくて嘘ついてんのかもしんねーじゃん? だよなー、求真?

巴求真

あり得ますねぇ。普段から素行が真面目な方ほど、情欲を溜め込んでるもんですし

八重梅規理

あなた達は、ほんと……

弦巻と巴は息の合ったセクハラまがいのコンビネーションで八重梅を追いつめていく。

こいつらはこういった嫌がらせにおいてはやたら相性が良いようだ。


そしてとうとう、八重梅が白旗を上げた。

八重梅規理

……分かったわ。そんなに疑うならあなた達もついてきなさい。数も四人で丁度いいし

弦巻藤吾

っしゃ、面白くなってきた! 遊(あそ)っちとも久々に会えるしね。求真、なんかゲームでもやらしてもらおうぜ

巴求真

あの人に関わると迷惑メールが増えそうですけど~

この展開を待ってましたと言わんばかりの弦巻とニヤニヤ笑いの巴を尻目に、八重梅は「迂闊(うかつ)だった……」とこめかみを押さえながら自分の席へと向かう。

ちなみに俺はイエスともノーとも明言してはいないのだが、当たり前のように拒否権なるものは存在しないらしい。

ここは唯々諾々と従うしか選択肢はないようだ。


弦巻は遊園地に行く子供のようなテンションで他の人間にも声をかける。

弦巻藤吾

あくのんも一緒に行かね? もしかしてこのクラス始まって以来の集団行動かもしんないぜ?

人性悪乃

興味ない、パス

一瞥(いちべつ)もくれずに人性が断じた。

弦巻藤吾

ノリ悪いでやんのー。そんじゃちるるは?

鳥居笹千流

私は桔平君の家で夕飯の支度があるから……

平桔平

自分の家でやれ!

俺はストーカー女を一喝した。

結局、不登校児とやらのところには四人で行くことになった。

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22|二日目 罪難多発―さいなんたはつ―

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