こちらの何気ない一言を耳にした人性悪乃の髪が、超(スーパー)サイヤ人に勝るとも劣らない勢いで逆立っていく……ように見えた。
こちらの何気ない一言を耳にした人性悪乃の髪が、超(スーパー)サイヤ人に勝るとも劣らない勢いで逆立っていく……ように見えた。
てめえ……。今、この髪のことなんつった?
そして徐々に膨張していく怒気をこめて、これまたどこぞの漫画の主役みたいな台詞を口にした。
サブカルの素養がある者なら、ウィットに富んだ台詞でも返してやるべきなのだろうが、残念ながらもうこの場はそんな悠長に構えていられる雰囲気ではなくなっている。
あれ? えっと、そう褒めてやればいいって巴が、あれ? え?
うおらあぁぁぁ!!
ザ・問答無用。
釈明の余地など絶無。
人性は持っていた紙の束を放ると、靴箱から誰かの靴の片方を手に取り、勢い良く投げつけてきた。
そのまま続けざまに第二陣、第三陣と無名の靴達が、横殴りの雨と化して飛来する。
うわわわわわ! ちょ、待って! 待ってくれ!
『靴を投げる』という字面だけではことの深刻さが伝わらないだろうが、彼女は投擲の際、正確に硬い爪先部分を標的に向けており、加えてその推進力たるや水平にガラスを貫いて数十メートル先の地面に突き刺さるほどに甚大。
この攻撃力の前には、個々にサブマシンガンを装備する特殊部隊ですら、恐らくものの数分で壊滅に至るだろう。
てか、殺される!
これは地毛だって、何回言わせりゃ分かるんだコラァ! お前もアレか!? あたしが洋モノばっか見聞きするから、それで外国人に憧れて髪染めてるとか思ってやがんのか、あぁん!? あたしのパーソナリティ貶しやがって! 上等だ! てめえみてえなマザーファッカーは絶対にこの手でぶっ飛ばす! ぶっ潰す! ぶっ壊す!
その外見で外国人扱いしないほうが難しいだろ!?
解読不能なポリシーを喚き散らしながら、彼女はとうとう傘立てまでをも振り回し暴れだす。
その攻撃範囲から命からがら脱出した俺は、激怒の咆哮を背中で浴びつつ、そのまま全速力で学校から飛び出した。
いやいや、マジで危なすぎ。
人性悪乃。
噂に違わぬどころか、噂以上の凶暴性を持った化物だった。