全速で教室に戻ると、一人残っていた弦巻がヒラヒラと俺の財布を見せびらかした。
全速で教室に戻ると、一人残っていた弦巻がヒラヒラと俺の財布を見せびらかした。
いやぁ、五分ジャスト。気づくまで結構かかったねえ
俺はつかつかと弦巻に歩み寄り、その手から財布を奪い取る。
何のつもりだ、てめえ!
あらあらー、そんな怒んないでよ。ちょっとからかっただけじゃんかー
くそっ
八重梅を待たせているので俺はさっさと引き返す。
後ろであいつがにやけていると思うと胸くそ悪かったが、相手をして図に乗らせるのも嫌なので完全無視だ。
早速被害にあったわね。御愁傷様
廊下で佇んでいた八重梅のところに戻ると、同情の言葉をかけられた。
明るくて良い奴かと思ったら……あいつはいつもあんなことしてんのか?
八重梅に指摘されるまで盗まれたなんて気づきもしなかった。
常習犯ならではの手際の良さを思わせる。
これからも気を抜かないほうがいいわ。私も一度だけやられたことがあるから
一度で済んでるのがすげえよ
ええ、今は彼が手を伸ばしてきたら刃物で切りつけるようにしてるから
……なかなか物騒な対策だな
まあ、誇張だろうけど。
話を終えると、やはり彼女はすげない調子でさっさと歩きだす。
やけに早足なので追いかけるので精一杯だ。
おっと
慌てていたせいで注意が散漫になり、トイレ前の床が濡れていたことに気づかず、つるんと足を滑らせ前屈みにバランスを崩してしまった。
その瞬間、ひゅんと額のすぐ傍を風切り音が通過した。
ん?
続いて前髪の一部がはらりと舞い落ちる。
顔を上げると、竹刀袋を腰に構える八重梅がいた。袋の口からは、やけにリアルな刀の柄が覗いている。
数秒の間を置き、彼女は呟いた。
……転んだフリしてスカートの中を覗こうとしたのかと思ったら、そうでもなかったようね
…………
俺はたった今、自分が斬り殺されかけたという事実を認識するのに、さらに数秒の時を要した。
──って、ええええええ!? 何してんのお前!?