全速で教室に戻ると、一人残っていた弦巻がヒラヒラと俺の財布を見せびらかした。

弦巻藤吾

いやぁ、五分ジャスト。気づくまで結構かかったねえ

俺はつかつかと弦巻に歩み寄り、その手から財布を奪い取る。

平桔平

何のつもりだ、てめえ!

弦巻藤吾

あらあらー、そんな怒んないでよ。ちょっとからかっただけじゃんかー

平桔平

くそっ

八重梅を待たせているので俺はさっさと引き返す。


後ろであいつがにやけていると思うと胸くそ悪かったが、相手をして図に乗らせるのも嫌なので完全無視だ。

八重梅規理

早速被害にあったわね。御愁傷様

廊下で佇んでいた八重梅のところに戻ると、同情の言葉をかけられた。

平桔平

明るくて良い奴かと思ったら……あいつはいつもあんなことしてんのか?

八重梅に指摘されるまで盗まれたなんて気づきもしなかった。

常習犯ならではの手際の良さを思わせる。

八重梅規理

これからも気を抜かないほうがいいわ。私も一度だけやられたことがあるから

平桔平

一度で済んでるのがすげえよ

八重梅規理

ええ、今は彼が手を伸ばしてきたら刃物で切りつけるようにしてるから

平桔平

……なかなか物騒な対策だな

まあ、誇張だろうけど。


話を終えると、やはり彼女はすげない調子でさっさと歩きだす。


やけに早足なので追いかけるので精一杯だ。

平桔平

おっと

慌てていたせいで注意が散漫になり、トイレ前の床が濡れていたことに気づかず、つるんと足を滑らせ前屈みにバランスを崩してしまった。

その瞬間、ひゅんと額のすぐ傍を風切り音が通過した。

平桔平

ん?

続いて前髪の一部がはらりと舞い落ちる。

顔を上げると、竹刀袋を腰に構える八重梅がいた。袋の口からは、やけにリアルな刀の柄が覗いている。


数秒の間を置き、彼女は呟いた。

八重梅規理

……転んだフリしてスカートの中を覗こうとしたのかと思ったら、そうでもなかったようね

平桔平

…………

俺はたった今、自分が斬り殺されかけたという事実を認識するのに、さらに数秒の時を要した。

平桔平

──って、ええええええ!? 何してんのお前!?

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6|一日目 犯罪学級―はんざいがっきゅう―

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