一日目
犯罪学級―はんざいがっきゅう―
一日目
犯罪学級―はんざいがっきゅう―
電車内に設置された液晶画面には、連続する強盗殺人事件のニュースが流れていた。
不吉なことに、どうやらこれから俺が向かう町の出来事らしい。
けれどいくら画面の中で深刻そうに語られても、今イチ現実感や危機感が生じないのは俺だけではないだろう。
きっとその事件に巻き込まれた人々も、いざ実際に被害者となる直前までは他人事だと油断していたのだ。
よって近隣住民の方々はお気をつけくださいと念を押されたところで、正直手の施しようもない。
詰まるところ、人生とは常に突然の連続だ。
齢十六の若造が「人生とは」なんて偉そうに断ずるのは少々説得力に欠けるが、それもまた一つの真理なのだから仕方ない。
そうでなければ、こうも突発的に転校なんて決まったりするものか。
高一の春休みもラスト五日となった日に、俺の実家のポストに謎の入学案内の郵便が届いた。
郵便には、見知らぬ学校のパンフレットと学生専用マンションの見取り図、そして最後に、すでに現在通っている学校には連絡を入れ転校の手続きは済ませてある、という旨を綴った非現実的な内容の手紙が添えられていた。
あまりにも強引かつ理不尽かつ不自然な展開に、当初は悪質な悪戯ではないかと思い母校へ連絡を取ったのだが、信じがたいことに手紙の内容通り、俺の学籍はもうそこには存在していなかった。
耳を疑った俺は、この陰謀めいた事実に対して一旦は警察に届け出ようとした。
だが俺の母は、
いいじゃない! なんか設備も豪華そうだし、マンションも高校生の一人暮らしにしては随分と広い間取りよ! 諸々の代金も向こう持ちですって!
なんて能天気に喜ぶ始末。
勿論、それに対する俺の反応は鈍い。
い、いや……でもこれ、待遇も良すぎて怪しくね? それに学校の奴らも急に転校するとか言ったら不審がるだろうし
という懸念に対して母は、
大丈夫よ! あんた仲いい友達とかいないでしょ? いなくなっても誰も気にしないから平気よ!
そう、きっぱりと言いきった。
そう……あろうことかうちの親は、愛すべき我が子に友達がいないと言いきりやがった。
それによく見なさいよ、ほら!
確実にテンションを下げていく俺とは反対に、加速度的に調子を上げていく母親がパンフレットの一部を指差す。
そこには『奨学金給付有り』の文字と、それなりの額が提示されていた。
末尾には謎のハートマーク。
これ卒業後に返済する必要がないタイプらしいから、このお金そっくりそのまま私のへそく……家計の足しになるわ! どうせ他に選択肢もないんだし、うだうだ言ってないで男らしく行きなさい! 母親からの命令よ、桔平!
…………
もう母の頭の中では俺がそこに通うことは決定事項らしい。
きっとこの人の辞書に『疑う』の二文字は存在しないのだろう。
そしてうっかり零した『へそくり』という単語も、しっかりと俺の耳には届いていた。
こうした経緯もあって、俺は謎だらけの学校へと転校するハメになったのである。