テーブルの上に広げられたトランプを

順番にめくっていく。





記憶力が乏しい私は

適当にめくっていくしかないのだが、



そもそもホワイト・ストーン氏は

室内でサングラスを掛けているので、

カードの数字やマークが

見えていないのでは

ないだろうか……。





私は横目で

ホワイト・ストーン氏の

様子をうかがった。





ハッ……!



ストーン氏、

サングラスの下で目を閉じている!





目を閉じたまま二枚のカードを

同時にひっくり返し、当てている!



ストーン氏、第三の目で見ているの?



ストーン氏が超能力者だったとはッ!





結局私は

一組もカードを当てることなく、

神経衰弱は

ストーン氏の圧勝で終わった。



ストーン氏は

心なしかぐったりとしている。



本当に

神経を衰弱させちゃったんだね……。





「ミスター・ストーン、凄いですね」





竹田先輩がホワイト・ストーン氏に

興味を持ったようだ。





「ストーン氏は、

 この能力でNASAの宇宙開発に

 協力を求められた事もあったそうだ」





「イヤァ……。

 それでもラスベガスでは

 一晩で百万ドルを水の泡にしたことも

 あってね……。

 金儲けに能力を使ってはいけないよ。   

 HAHAHA!」





黒川とストーン氏が

壮大な嘘をついている。



一体、どんな設定に

なっているのだろうか……。



後で台本をチェックしよう。





三人の王子の興味が、

すっかりストーン氏に向いてしまった。





…………。



黒川も白石も、

私のフォローをするという

当初の目的を忘れているよね……。





暇をもて余した私は、

黒川が焼いたフォーチューンクッキーを

一つつまんだ。





メッセージは何だろう……。





『早くアピールしておかなくちゃ、

 幸せが逃げていっちゃうゾ☆』







うるせー!





「モキー! モキャー!」





黒川のクッキーを

紙ごと食らいつくした。





「ど、どうしたの? さち子さん……」





三人の王子が驚いている。





「大丈夫だ。

 妹はたまに発作を起こすが、

 甘いものを口に突っ込んでおけば、

 大体治まる」





黒川が私の口に一口羊羮を突っ込んだ。





「お! 美味!

 これは極上羊羮ですよ!

 黒か……、兄者ッ!

 もう一口……、その一口羊羮を、

 もう一口いただけますかッ!」





「あ……。

 さち子さんの発作が

 治まったようですね。

 良かったー」





竹田・優しさ王子・先輩。

貴方は何処まで

優しさに包まれているの?


「皆さん、

 ご心配をお掛けして

 申し訳ございません。

 もう一口……、あと一口、

 この極上羊羮をいただけたなら、

 私の発作は完治しますから」





「さち子さん。

 当店の羊羮を

 気に入っていただけたようで、

 光栄です」





「エッ? 嘘ッ!

 梅田先輩。もしかして、もしかして!

 テレビコマーシャルでよく見る、

 あの『梅~田のぉ~、梅~田のぉ~、

 梅田の羊羮ンン~♪』の、

 梅田の羊羮先輩だったのですかっ?」





「フフッ。

 そうです、そうです。

 あの梅田の羊羮です。

 さち子さん、

 鼻から血が出ていますが、

 大丈夫ですか?」





梅田先輩に、

もれなく梅田羊羮が付いてくる。



梅田羊羮ウィズ梅田先輩。



ああッ!

興奮しすぎて鼻血がッ!





黒川、ティーッシュ!





黒川は、私の両方の鼻と口に

ティッシュを詰め込み、

私を抱き上げた。





「皆さん申し訳ない。

 妹に高級羊羮は

 刺激が強すぎたようだ。

 今日は発作が治まりそうにないので、

 また日を改めて

 いただけるだろうか?」





く、黒川ッ!

何で勝手に解散宣言しているんだ!





「そうですね。

 楽しくて、

 つい長居をしてしまいました。

 そろそろ失礼しなければ。

 さち子さん、

 お大事になさってください」





あッ!

皆、待って!

私は元気です。

元気モーリモリ。



羊羮! 梅田の羊羮!





「もめぎゃ田もォ、もうか~ン……!」





黒川に抱き抱えられたまま、

私は三人の王子を残して

部屋から退出した。







試合、終了。

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