夕食時間。

私達は黒川抜きで、

白石が焼いたサーロインステーキと

青田達がついた餅の入った

味噌汁を食べた。



餅入り味噌汁と

サーロインステーキ。


うん。

組み合わせがおかしい。



テーブルの上に

焼き肉のタレが置いてある。

サーロインステーキに

掛けて食べろという事か。


本当に

肉をジュージューしただけだな。

サーロインが台無し。



これはこれで美味しいけれど。



「お嬢。

 後で黒川君の部屋へ

 食事を運んでくださいね」



「えー?

 また私を使うのですか?

 私は病み上がりなのですよ?」



「黒川君は今、

 お嬢のウイルスと

 闘っているのですよ?

 お嬢は免疫が付いているから

 黒川君から

 風邪をうつされることは

 ないでしょう?」



「……分かりました」



食事を終えた私は、

料理をワゴンに乗せて

黒川の部屋へ向かった。



「黒川ー。

 起きていますかー?

 入りますよー?」



部屋に入ると、

黒川はベッドで眠っていた。


呼吸が荒くて

辛そうな顔をしている。



「……熱い」



黒川の頬に

そっと触れてみると、

まだ熱が高いようだ。


私が黒川の額に貼られていた

冷却シートを剥がし

新しいシートに貼り替えていると、

黒川が目を覚ました。



「お嬢……」



「黒川。

 うちのウイルス達が

 ご迷惑をお掛けしてごめんなさい」



「言っている意味が

 さっぱり分からない。

 馬鹿の平常運転だな」




黒川の毒舌も

平常運転ですな。



「俺の風邪がうつると面倒だから、

 早く自分の部屋へ戻れ」



「ご安心ください。

 今、黒川の体中で

 暴れているウイルス達は、

 全て私が製造したものですから。

 私には効きません」



「お前が製造したウイルス……。

 想像すると気持ちが悪いな」



私は、

小さな暗黒少女達が

黒川の体内で暗黒大魔王と

必死で戦っている姿を想像した。



頑張れ。暗黒少女!



「何でガッツポーズを

 しているんだ?」



「あ、失礼。

 それより皆が

 黒川の為に作った晩ごはんを

 お届けに上がりました」



私はワゴンを黒川の近くまで運んだ。



「こちらが

 白石がジュージューしただけの

 立方体の肉、

 立方体の野菜添えでございます。

 お好みで

 焼き肉のタレを掛けて

 お召し上がりください。

 そしてこちらは

 残りの三人が

 昼間にペッタンした

 餅入りの味噌汁です。以上!」



「……で、

 お前が右手に持っているものは

 何だ?」



「あ。

 これは

 私が黒川に

 見せるためだけに用意した

 プリンです。

 あくまで観賞用なので……」



「お前がプリンを作ったのか?」



「プリンの作り方など

 知るわけないじゃないですか。

 昨日、桃が買ってきたプリンを

 私が皿に盛り付けただけです」



「そのプリンが食いたい。

 寄越せ」



「いやいや。
 
 だからこれは観賞用なのです。

 後でスタッフが

 美味しくいただいておきますから。

 安心して

 他の力作を食べてあげてください」



「今は肉や餅の気分じゃないから

 プリンをもらう。

 早く寄越せ」



クッ!

持ってくるんじゃなかった。


私は渋々、

黒川にプリンを手渡した。



「……おい。

 切なそうな顔で俺を見るな。

 それに何故

 鼻の穴にティッシュを

 詰めているんだ?

 気になって食えないだろう」



「ああ。

 このティッシュは、

 つい興奮しすぎて

 鼻血を噴き出してしまったので

 白石に詰められてしまったのです。

 ドント・ウオーリー」


「何で興奮したんだ?」



「そんな事……。

 言えませんよ……」



期間限定のシュークリームに

興奮したなんて、

恥ずかしくて言えないよ。



「何、顔を赤らめているんだ?

 気持ちが悪いな。

 お前も一応女なんだから、

 興奮して鼻血なんか出すなよ」



あ。

黒川が初めて

私の事を女の子だと認めてくれた。



今日は私の

『女の子記念日』と名付けよう。



「このプリンの上に

 乗っている野菜は

 何か意味があるのか?」



「彩りのバランスを考えて、

 赤のプチトマトと

 緑のキュウリを乗せてみました」



「…………」



黒川が黙った。


きっと感心しすぎて

声が出ないんだね。フフッ。



「お嬢。

 頼むから、鼻にティッシュを詰めて

 切なそうな顔で俺を見るのを

 止めてくれないか?」



「ドンッ・ウオーリー!」



「…………」



さあ、黒川。


食欲が失せたのなら、

今すぐそのプリンを私に返しなさい。



「…………。

 一口、食うか?」



「えッ? いいの?」



黒川がスプーンですくって

食べさせてくれた。



「うん。

 プリンの甘味と

 プチトマトの酸味が

 口の中で喧嘩して不味い!」



「だろうな」



黒川が笑いながら、

もう一口運んでくれた。



「あらッ。

 キュウリのシャクシャクした

 食感が斬新!

 プリンに合いますよ!」



「そうなのか?」



結局私は

黒川に食べさせてもらって

プリンを完食した。



一体何しに来たんだ?

私よ……。



「黒川、ごめん。

 今から誰かのプリンを

 強奪してくるから少し待っていて。

 桃は買って来てくれた人だから

 駄目でしょう?

 青田と白石は

 後々面倒なことになりそうだし……。

 よし。赤井のを奪ってくる!」



「待て。お嬢」



黒川が私の手を掴んだ。



「全員分あるということは、

 お前の分もあるはずだろう?

 お前の分を寄越せ」



「私の分は……。

 ここへ来る前に食べました」



「何・だ・と……?」



ギャァァー!

黒川、手を離してー!


黒川恐怖、黒川恐怖!



黒川が、ベッドの上で

仰向けになった私の上に馬乗りになる。



この光景、

何処かで見たことがある……。





そうだ!


黒川ビュー、

黒川ビューイングですよ!

(黒川にマジックで

おでこに『肉じゃが』と書かれた日参照)



「く……、黒川。

 だから女の子の上に

 馬乗りになったら

 駄目なんだってば……」



「お前を女だと思った事は

 一瞬たりともねえな!」



『女の子記念日』の崩壊。



黒川が馬乗りになったまま、

私の頬をぎゅうぎゅう押さえる。


熱のせいで今の黒川は正気ではない。



く……、黒川、
止めて……。



これ以上口を押さえられると、

口呼吸が出来なくて……。



『すぽぽーん』



私の鼻に詰められていた

ティッシュが飛び出し、

黒川の額へクリーンヒット。



黒川、その場に崩れ落ちる。




…………。



て、



私の上に乗っかったまま

黒川が気を失っている。




どうするの? これ!

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