「白石、大丈夫ですか?」



「ああ……、お嬢。

 大丈夫ですから

 放っておいてください」



「白石、

 きつねうどんでも食べますか?

 お腹がいっぱいになれば

 元気が出るかも知れませんよ?」



「ははは。

 そうですね。

 では、カレーうどんでも

 頂きましょうか」



駄目だ……。

白石が完全に壊れている。



白石は普段、

シャツが汚れるからと言って、

決してカレーうどんを口にしない。



でも、

本人が食べたいと言っているのだ。


ここは彼の意思を尊重しよう。



「黒川、

 カレーうどんのオーダーが

 入りました!」



黒川がカレーうどんを買いに行く。



「白石、一人で食べられますか?

 私が食べさせてあげましょうか?」



「お嬢、嫌がらせがしたいのですか?

 あんなに触るなと言ったのに……。

 消えてください」




……酷い。

本当に心配しているのに。



「お嬢。

 白石君の事は

 しばらく放っておいてやれ。

 そろそろ帰る時間だ。

 最後に一つだけ、

 お前の乗りたいものに

 俺が付き合ってやろう」



「でも……、白石が……」



「白石君は青田君が見ているから

 大丈夫だ。

 そうそう、白石君。

 土産物売り場でTシャツを

 買って来たから、

 後で着替えるといい」



「黒川君、

 ありがとうございます」



「白石、ごめんね」



「…………」



白石……、

返事すらしてくれない。


相当怒っているようだ。



黒川がスタスタと歩き出したので、

私は黒川から離れないよう、

小走りで後を追った。



「お嬢、何に乗りたいんだ」



私は黙って

遊園地の中で一番高い乗り物を

指差した。



「観覧車か……」



黒川が

懐かしそうに観覧車を見上げる。




観覧車に乗り込むと、

地上からゆっくりと離れていく。


年季の入った観覧車が

ギシギシと音を立てるたび、

少し不安になる。



「黒川。

 この観覧車、落ちないかな……」



「ハハハ。

 この高さから落ちたら

 即死だから安心しろ」



「安心できるかー!」



「フッ……」



黒川が

外の景色を見ながら静かに笑った。


私も窓の外を眺める。



「観覧車って……。

 高い所からの景色を楽しむ

 乗り物ではなくて、

 落ちたらどうしようか考える

 乗り物だったのですね」



「そんな事を考えながら

 乗っている奴は、

 お前ぐらいだと思うが」



「白石……。

 まだ怒っているかな……」



「お前、

 怒らせるのが上手いよな」



「怒らせようと思って

 怒らせているわけではありませんよ。

 誰かを怒らせてしまった時は、

 いつも後悔しています」



「白石君が本気で怒っていたのなら、

 城の中でお前を置き去りにして

 出てきただろう。

 面倒なお前をわざわざ外まで

 連れ出してくれたのだから、

 素直に礼だけ言っておけば

 良いのではないか?」



「…………」



「あんなに楽しそうにしている

 白石君を見たのは

 初めてだけどな」



「楽しそう?」



黒川がにっこり笑ったところで

観覧車はもとの位置に戻ってきた。



観覧車を降りると、

下で皆が集まっていた。



「お嬢、楽しかったね。遊園地」



「う、うん。そうだね、桃。

 し……、白石、
 
 今日は付き合ってくれて

 ありがとう」



「……仕方ないですね。

 もう金輪際、

 お嬢の面倒は見ませんからね」



「あ……、はい」




白石は、

私がビリビリに引き裂いてしまった

シャツを脱いで、

黒川が買ったTシャツに着替えていた。



この遊園地のキャラクターらしき

ファンシーなウサギが

でかでかとプリントされた

濃いピンク色のTシャツ……。



黒川、

何故これを選んでしまったのか。



白石、

どんな心境で

このTシャツに着替えたのか……。

閑話(お嬢と五人の執事)遊園地編3

facebook twitter
pagetop