私と白石は

一旦休憩を取ることにした。



「青田、

 先程食べていたラーメンは

 何ですか?」



「味噌ラーメンだよ」



「黒川、

 味噌ラーメンが食べたいです。

 味噌ラーメン一丁!」



「うるせえな……」



黒川が渋々

味噌ラーメンを買いに行く。



「白石も一緒に

 味噌ラーメンを食べませんか?

 次のアトラクションに備えて、

 体力をつけておいた方が

 良いですよ」



「いえ結構です。

 先程のお嬢の姿を見て

 食欲が失せました」



まあッ! 酷い。


後でお腹が空いたと言っても

知りませんからね!



しかし青空の下で食べる

ラーメンは格別ですなー。



「黒川、美味。

 青空味噌ラーメン、

 美味ですよ」



「分かったから黙って食え」



「お嬢。

 ラーメンを

 すすらないでください。

 汁が飛んで、服が汚れますよ」



「うるさい白石。

 ラーメンは

 すすって食べるものです」



「フフッ。

 お嬢はいつも楽しそうだなー」



うん、楽しい!



これからも作戦を口実に、

今まで行ったことのない場所へ

連れて行ってもらおう。



「さあ、休憩終わり!

 白石王子、

 次はあの城へ参りましょう」





少し離れた場所に、

この遊園地のシンボルのような

城が見えた。



城の中は、きっと

メルヘンが満載の世界だろう。



滅茶苦茶不機嫌な白石王子と一緒に、

メルヘンを満喫しよう。



「…………!」



城の前に到着すると、

看板に大きな血文字で


『恐怖!

 呪いのスプラッターハウス』


と書かれていた。



し……、

城でもメルヘンでもない……。



立ちすくむ私の姿を見た白石が、

珍しく笑顔で声をかける。



「さあ、プリンセス。

 城の中に入りましょう」



「し……、白石。平気なの?」



「こんなもの、

 全て作り物ですよ?

 怖いのですか? プリンセス」



クッ……!

白石王子が嬉しそう。



「こ、怖くなどありません。

 参ります」



城の中へ足を踏み入れた瞬間から

怨念が漂っていた。



「ギャー!

 白石、置いていかないでー!」



「ハハハ。

 お嬢、

 絶対抱き付かないでくださいね。

 指一本でも触れたら

 どうなるか分かっていますよね?」



「わ、分かっていますよ。

 でも、怖くて目が開けられません。

 白石、歌でも歌ってください。

 それを頼りに前へ進みますから」



「歌なんか歌うかー!」



白石の足音が遠ざかっていく。



「白石、何処ですか?

 本当に何処? 助けに来て……」



ああ……。駄目だ。



私はきっと、

この城に閉じ込められて

永遠にさまよい続けるんだ。



さようなら、白石王子。

さようなら、皆。



「……仕方がないですね」



「白石?」



「特別サービスで、

 これを貸してあげましょう」



怖くて目が開けられない私は、

手探りで白石から何かを受け取った。



「……何ですか? これは」



「ベルトですよ。

 これで出口まで引っ張りますから、

 ちゃんと付いて来てくださいね」


「……はい」



私は目を閉じたまま、

白石のベルトを掴んで歩いた。



『キャー!』



「ギャー!

 やっぱり怖いー!

 無理無理無理無理!」



「ちょっ……!

 お嬢、俺に掴まるなって!

 ああッ! シャツが!

 俺のシャツがーッ!」




数時間後、



私と白石は無事、

城から生還を果たした。



いつの間にか

白石が着ていたシャツは

ビリビリに引き裂かれ、

白石のベルトは私の首に巻かれていた。



「白石君、お嬢。

 城の中で一体何があった!」



「黒川君、

 これ以上お嬢の面倒を見るのは

 無理です……」



白石王子、倒れる。





再び遊園地に来ることがあったら、

城には絶対入らない。



下見をしておいて

本当に良かった……。

閑話(お嬢と五人の執事)遊園地編2

facebook twitter
pagetop