ある日の『報告会』で。



「では、他に連絡がある者は?」



「ハイハイッ!」



「…………」



「黒川、無視するなー!」



「何だ? お嬢。

 お前の連絡は、

 聞いても誰も得をしない」



「黒川、言いましたね?

 私は貴殿方の作戦を

 円滑に遂行するために、

 今から大変重要な事を

 申し上げようとしているのですよ?」



「よし。解散」



「コラ待ちたまえ。

 待って下せぇ……。黒川様」



「何なんだ?

 面倒だから早く言え」



「どうか私を

 遊園地に連れて行ってください!

 私もいずれ

 恋の相手が出来たとして、

 初デートで失敗しないよう、

 遊園地の下見を

 しておきたいのです」



「お!

 珍しくお嬢がヤル気を出している」



「赤井。当たり前ですよ。

 私はいつもお世話になっている

 皆様の事を考えながら

 生きているのです。

 その為ならば、

 一肌でも二肌でも脱ぎますよ。

 だから私を遊園地に

 連れて行って下さいッ!」



「わー。ボクも遊園地に行きたい」





私は、

一度も遊園地へ行ったことが無い。



もしかしたら小さい頃、

父さんや母さんに

連れて行ってもらったことが

あるのかもしれないけれど、


そのあたりの記憶が全く無い。



いつもテレビの

『遊園地特集』を見て、

ずっと遊園地に憧れていた。



黒川が私を見つめる。

私は黒川を見つめ返す。

黒川が目を逸らす。


酷い。



「くだらない提案だが、仕方がない。

 それでお前がヤル気を出すのなら、

 連れて行ってやろう」



「ヤッフゥー!」



私は桃と一緒に小躍りした。





……と、いう訳で


後日、

私と五人の執事は

遊園地へ行った。



「うわー。

 何だか少し想像と違ったー」



私は一つの乗り物に乗るためだけに、

長い行列で

一時間以上待たされるような……、


そんな感じの遊園地を想像していた。



しかし、目の前に広がる遊園地は

人がまばらで、

乗り物もメンテナンスされているのか

不安なほどボロボロで、

半分廃墟と化していた。



「……うん。

 まあ、並ばなくて良いから

 乗り物が乗り放題だね!

 わー。楽しみー」



はッ!

桃と赤井が二人で

向こうに行ってしまった。



乗り物って

基本的に二人で乗るものだよね?


目の前にはテンションの低い

大人しか残っていない……。



「あのー。

 誰か私と一緒に乗り物に

 乗っていただけませんか?」



「あー。

 僕はこういうの苦手だから

 遠慮しておくよ」



「こんなボロボロの

 乗り物に乗ったら、

 着ているものが汚れるから嫌です」



「ここへ連れて来て

 やっただけでも感謝しろ」



折角楽しみにしていたのに……。

一人で乗るなんて寂しいよ……。



「…………。

 分かりました。

 誰も一緒に乗ってくれないのなら、

 私はここで

 誰かが一緒に乗ってくれるまで

 土下座し続けます」



私は三人の前で靴を脱ぎ揃え、

土下座の体勢に入った。



「や、止めてください!

 服が汚れます!

 一緒に乗りますから、

 だからこの場で土下座だけは……!」



フフ。白石。


お前ならそう言うと

思っていましたよ。

大勝利!



「さあッ、白石。

 参りましょう!」



私は白石を連れ、

メリーゴーランドへ向かった。



メリーゴーランドは

私の憧れの乗り物第一位だ。


小さい頃からずっと、

白馬に引かれた馬車に、

どこかの国の王子様と一緒に

乗ってみたかった。



「白石王子、馬車に乗りますよ。

 王子。馬車の中では私の事を

 プリンセス、もしくは姫君と

 呼んでください」



「馬鹿ですか?

 絶対嫌ですからね」



白石王子、ご立腹。

 
しかも馬車に乗る前に、

除菌ペーパーで

徹底除菌している。


夢が無いよね、潔癖王子。



メリーゴーランドが回り出すと、

白石王子は

私に背を向け無言状態だ。



「…………」



メルヘンチックな音楽に合わせて

メリーゴーランドがグルグル回る。


一周するたび

黒川と青田の姿が見える。




あ。

青田がラーメンを食べている。



メルヘン台無し。

お腹が空いた。



今、気が付いたけれど、

馬車って上下に動かないのね。



地味だ。

地味すぎる。



次回

メリーゴーランドに乗る際は、

馬に乗ろう。



「白石、

 次はコーヒーカップに乗りますよ」



「えー。何の罰ゲームですか」



白石が渋々付いてくる。


白石、乗る前の除菌タイム。



……面倒臭い。

白石、本当に面倒臭いよ。



またもやメルヘンチックな

音楽と共にコーヒーカップが

回り始める。



「ん? 白石、

 私たちの乗っているカップだけ

 他のカップより

 回転が遅い気がします……」



「ああ。

 お嬢、知らなかったのですね。

 この真ん中にある

 ハンドルを回せば、

 回転速度が増すのです。

 この原理は……、

 しかし三半規管が……、

 だから回さない方が……」



白石の

どうでも良い説明が始まった。



要は、このハンドルを

回せば良いのだな。




よし、回そう。


うぉりゃ!



「お嬢!

 だから回すなと

 言っているでしょう!」



「ふははは! 聞こえんなー!」



何これ。面白い!



他のカップより、

ぶっちぎりに早く回っている。



皆、こっちを見ている。



もう、コーヒーカップでも

メルヘンでも何でもない乗り物だ。



わーい!




コーヒーカップの回転が止まると、

私はとんでもない吐き気に襲われた。



止まっているはずの景色が

グルグル回り、

地面もフワフワしている。




こ……、

これがメルヘンの世界。




「ぐ……、白石、

 気持ちが悪い……。

 吐きそうだ……。ウォエー」



「だから言ったでしょう。

 今ここで吐いたら、

 絶対許しませんからね!」



「白石、

 どうしてお前は平気なの?

 ヴォエー」



「それは回転性めまいと言って、

 人間の三半規管が……、

 だから視線を一点に集中して……」



し……、白石……。

お前の説明は

何一つ私の頭に入ってこない。



……駄目だ。

白石の難しい説明を聞いていたら、

余計に気分が悪くなってきた。


ヴォエー。

閑話(お嬢と五人の執事)遊園地編1

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