今日は化学が無いから、

白石の授業はホームルームだけか……。



ホームルームで怒られる事は

無いだろうから、


今日の『報告会』は安心だ。




……が!


私には

白石を怒らせて『お宝ボイス』を

ゲットしなければならぬという

任務が課せられている。



クラスの女子の大半が

録音準備をして構えている。



エビちゃんも山田も準備万端だ。


……ん?


山田?



「席に着けー」



白石が来たッ!



「今日は

 体育祭の参加種目を

 適当に決めてくれ」



白石、適当だな。



もうすぐ体育祭か……。



参加種目は何でもいいや。



黒川から逃げるために

毎日走り込んでいるので、

脚力には自信がある。



最後に残った種目に参加しよう。

暫し、お昼寝タイム。

グゥー。



『ゴスッ』



「ぎゃっふー!」



白石がッ……!

白石先生が出席簿で殴った!


しかも角でッ!



これは今日の『報告会』で報告せねば。



あ……。

皆が切なそうな顔でこちらを見ている。



『白石のお宝ボイス』ではなく

『さち子の雄叫びボイス』を

録音してしまったのか……。



山田……。

何故お前も切なそうにしているんだ?

気持ち悪いから、そんな顔をするな。



むー。

わざと白石を怒鳴らせるのって

結構難しい。


白石は日頃からテンションが低いから

滅多に怒鳴らないし、


仮に怒ったとしても

途中から面倒臭くなって止めてしまう。




黒川と違って根気がないですな。

ウフフッ。



「授業中にニヤニヤするな!」



『ゴスッ』



「フギャッ!」



白石。

出席簿の角で攻めるのは

止めていただけませんか?



しかし、

なかなか良い『お宝ボイス』を

頂けたのではないでしょうか?



皆さん、いかがでしたか?



あ……。

皆が切なそうな顔をしている。



またもや

『さち子の雄叫び』が

混ざってしまったのか……。



かたじけない。



結局その日は

皆が満足するような

『お宝ボイス』を獲得することなく

一日が終わった。





屋敷に戻って晩ご飯を食べ、
風呂から出たら

恒例の『報告会』が始まった。



「青田君。

 例の手紙を三人に渡してくれたか?」



「バッチリだよ。黒川君」



ん? 手紙?



「あの……。手紙って何ですか?」



「お嬢。

 真面目に会議に参加しないから、

 作戦の内容が

 分からなくなるのですよ」



白石から資料のようなものを頂く。



こ……、これはッ!



私の暗黒ポエムから

抜粋したと思われる、

異常にメルヘンチックな

ラブレターではないですか!



しかも、達筆な黒川が

微妙なアドリブを入れつつ、

縦書き毛書体で書いているので、

非常に怨念。



怨念込められた

呪いのラブレターになっている。



「あ、青田……。

 本当にこの手紙を

 渡してしまったのですか?」



「イエス!」



「ぅ、わぁぁぁ……!

 怨念!

 怨念炸裂だぁぁぁー!」



「またお嬢が暴れだした!

 誰か縄を! 縄を持てー!」




……うん。

分かっている。



こんなラブレターを

まともに受け取る奴はいない。


放っておこう……。



私は椅子に縄でグルグル巻きに

されたまま、

大人しく報告会が終了するのを待った。



「では、他に連絡事項がある者は?」



「ハイッ!」



グルグル巻きにされて

手が挙げられないので、

椅子ごと立ち上がった。



皆の視線が私に集まる。



「他には?」



「黒川ァァァー!

 無視するなァァァー!」



「仕方がねーな。

 何だ? お嬢」



「今日、

 白石が出席簿で

 私の頭を殴りました。

 しかも角でッ!

 さらに二回もッ!」



「……分かった。

 お前が二度もふざけて

 白石君を怒らせたという事だな。

 お嬢以外、解散!」




ぎゃぁぁぁ……!


皆、置いていかないでー!



誰かぁぁー!

縄を解いてくださーい!

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