毎回テスト期間になると、

黒川の『地獄の勉強会』が

開催される。





まず教科書とノートを

チェックされ、

落書きなど見つけられようものなら

黒川の長い説教が始まる。



黒川の説教は、睡魔との戦いだ。



無駄に心地良い声をしている

黒川のせいで、

つい眠たくなってしまう。



居眠り、説教、居眠り、説教……。


無限ループだ。



そもそも勉強などしても

翌日には

スッカリ忘れてしまうので

時間の無駄だ。



結局悪い点数を

取ってしまって

説教されるのだから、

勉強会など不要である。





しかーし!


今回の化学のテストは自信がある。


何故なら

目の前に現役教師がいるからだ。



「白石先生。

 明日の化学のテストの答えを

 教えてください」



「お嬢。

 ふざけているのですか?」



 
私は本気だ、白石先生。


あと一度でも

悪い点数を取ったら、

『1ヶ月間おやつ無し』

という厳しいお仕置きが

待っているのだから。



もう崖っぷち。



「白石先生。

 悪いようにはしませんよ」



そう。

私は知っている。


白石が、

金の為なら何でもやる男

だという事を。



「私がテストで百点を取れば、

 ご褒美で五百円が貰えます。

 それをそっくりそのまま

 先生の懐に……」



フフフ……。


我ながら卑怯な考えだが

仕方がない。


崖っぷちに立たされた人間が、


どんな汚い手でも

使ってしまう事を思い知れ。



「そんな端金で

 誰が動きますか」



五百円を馬鹿にするなッ!


五百円を笑う者は

五百円に泣くぞ。



「…………。

 仕方がないですね。

 問題のヒントを与えましょう。

 まず教科書とノートを

 出してください」



「はいッ!」



「では、ノートに

 元素記号を書いてください」



「白石先生。
 
 元素記号って何ですか?」



「ふざけるなッ!」



ゴスッ!



し……、

白石先生が殴った。


角で……。


教科書の角でッ!



「お嬢。良いですか?

 物質は全て原子で出来ていて……、

 地球上の……、宇宙が……」



あー。

白石が宇宙の話をし始めた。



明日のテストと

何の関係があるのだろうか。



長いなー……。


答えだけ教えてくれたら

いいのになー。


……で。

…………グゥー。



……宇宙。……月。……うさぎ。……月見。

……月見団子ッ!

うさぎと一緒に月見団子ッ!

……星。……惑星。……ブラックホール。

……ブラック。

……黒。……黒川。

……黒川がブラックホールの中へ

私を引きずり込む……。


……恐怖ッ!


……黒川恐怖ッ!



「黒川恐怖ッ!」



「何故だ」



いつの間にか

目の前にいた白石が

黒川に変わっていた。



化学反応?


化学反応ですか?



「く……、黒川。

 あれ? 夢?」



「白石君に、

 お前がヨダレを垂らしながら

 居眠りをしていて気持ちが悪いから

 代わってくれと

 頼まれた」



え? ヨダレ?



あ。


いつの間にか

私の前に洗面器が置かれている。



どれだけヨダレを垂らすと

思われているの。



「黒川。いつからそこに?」



「一時間前」



凄いな、黒川。

私がヨダレを垂らしながら

眠っている姿を、

よく一時間も見ていられるな。



「月見団子」



はッ!

何故、

私が見ていた夢の内容を?



「ブラックホール」



「く……、黒川?」



「お前。

 五百円で白石君を

 買収しようとしたんだってな」



黒川が

静かに笑いながら言ったが、

目の奥は全く笑っていなかった。



わぁぁぁ……!



黒川、恐怖ッ!

閑話(白石とお嬢の日常)その2

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