休み時間、

エビちゃんが駆け寄ってきた。



「さち子。

 白石先生、格好いいよね!」



え?

どこが?



「早速、白石先生に

 猛アタックするなんて。

 さち子って、意外と積極的だね」



いえ。

アタックを仕掛けてきたのは

白石の方です。


アタックの意味が180度違いますが。



教壇の方を見ると、

クラスの女子の大半が

白石の回りを囲んでいた。



へぇー……。

白石、女子に人気があるんだ。



「白石先生、

 この問題が分からないので

 教えてください」



え?

授業中、誰も手を挙げなかったよね?



白石と果敢に闘った

山田と私は何だったのか。



「授業時間以外での質問は

 受け付けねーよ。

 給料分の仕事しかするつもりはない」



白石、

私以外の女子にも容赦ないですな。


そして

相変わらずお金の事しか

考えていませんな。



「キャー!」



黄色い声援。

いいの?

そんな酷い対応をされて、

本当にいいの?



「白石先生!」



「近寄るな。スーツが穢れる」



「キャー!」



……重症だな。



あ。白石と目が合った。


駄目だ。目をそらさねば。



「おい、そこの赤い奴。

 こっちへ来い」



キター!

一番嫌なパターン。



沢山いる女子の中から

地味な私が敢えて選ばれ、


「何あの子。

 何であの子なの? 生意気!」


とか言われて

いじめられるパターンですよね?



嫌だ嫌だ。



今の私は決して地味ではないけれど。


むしろ派手な格好をしているけれど。



私は大人しく白石の元へ向かった。



ここで逆らって

白石を怒らせてしまったら、

またもや私が猛アピールを

していると思われてしまう。



うう。女子の視線が痛い……。



「白石先生、

 いかがされましたか?」



「この、

 生徒から集めた宿題ノート。

 触りたくないから職員室まで運べ」



潔癖かッ!


いや潔癖だった。



主に力仕事を押し付ける執事が

どこにいるッ!


ここにいた。



ここで命令を拒否して

白石を怒らせ、


女子から

「先生の気を惹こうとしている」

と思われて体育館の裏に

呼び出されるルートと、


素直に命令を聞いて

「先生と一緒に職員室へ行くなんて

 生意気」


と、体育館の裏に呼び出されるルート。



さあ、どっち?



……どっちも嫌だ。



「先生。力仕事ならば、

 隣の席の山田が承ると

 申しております。

 是非、山田を使ってやってください」



女子の視線が山田に向かった。


バッドエンド回避成功!



「待て!

 山田と一緒に

 校内を歩きたくねーよ!」



わぁ~!


白石先生、酷い。

山田、可哀想……。





結局私は

女子の冷たい視線を浴びながら、

白石の荷物運びをさせられるという

最悪なルートを選択せざるを

得なくなってしまった。



ぐぐぐ。重い……。



たかがノートでも、

四十冊もあれば結構な重さ。


やはり

山田も連れて来れば良かった……。



白石。

今ここで

「半分持ってやる」

ぐらい言えば、

好感度がアップしますよ?


私の心の中限定だけど。



「お嬢」


お、白石。

持つ気になったか。



「フラフラ歩くなよ。

 まるで俺が

 お嬢を無理矢理引きずり回している

 みたいじゃないか」



いや。

かなり無理矢理ですよ。



ただでさえ、

ぐるぐる巻きの包帯と

チューリップハットで

視界が悪くなっているのに、

ノートを持っているせいで

足元も見えない。



それにしても、この構図。


どう見たって

マッドサイエンティストと

試作品一号(失敗作)だよね。



「……この木」



ふと白石が足を止めた。



「懐かしいな」



「……ん?

 白石も、この学園に

 通っていたのですか?」



「え? 覚えていないのか?

 俺も黒川君も青田君も

 ここの制服を着ていたじゃないか。

 ……まあ、

 小学校と敷地が違うから、

 そんなものか」




……ん?


白石も黒川も青田も何歳なんだ?

赤井と桃は同級生だから、

私と同い年だということは

知っているけれど。



そう言えば、

皆自分の事を話さないから、

桃以外の過去は何も知らない。



「……白石?」



「フッ……」



あ……。

白石が笑った。



白石、

切なそうな顔で笑わないでよ。


いつものように怒っている方が、

まだマシだよ。



それから白石が何も喋らないので、

私は黙って職員室まで付いて行った。



「そこら辺に置いておけばいい」



白石が床を指差した。



え? 床に置くの?



どれだけゴミ扱いしているのか……。



一番下は山田のノートだから、

別に構わないけれど。



「お嬢」



「ん?」



「お疲れ」



「……うん」



私は白石の顔を見ず、

そっけない返事をして職員室を出た。



変だよ。変。変。


いや、

今の自分の姿が一番変だけど。



白石は、

黒川みたいな白石じゃなくて、


あんなに切なそうな笑い方をする

白石でもなくて、


敬語で毒舌を吐いている白石でいい。





四時間目の授業まで、

私はボーッとしていた。



昼休みになって、

黒川から弁当を受け取るのを

忘れていたことに気付いた。



「エビちゃん。

 今日、弁当を忘れたから

 カフェテリアでパンを買って来る」



「あら、珍しいわね。

 行ってらっしゃい」



教室を出ようとした時、

クラスの女子達に呼び止められた。



「さち子さん。

 少し宜しいかしら?」



あ。

体育館裏に呼び出しルートだったのを

すっかり忘れていた。



「今からパンを買い求めに行くので、

 宜しくないです」



「では、

 昼食後に体育館の裏へ

 来ていただけるかしら?」



来たー!


もう回避出来ないよ。



仕方がない。

白石の為に殴られてくるか……。



「あ……。ハイ」



「では後ほど。ごきげんよう」



「ご、ごきげんよう」

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