「嫌だァァァー。

 学校行きたくないー。

 今日は学校を休みますー。

 休ませてくださいィィィー」



「何、馬鹿な事を

 言っているんだ。

 わがまま娘」



「わがままなんか

 言っていません。

 後頭部を強打したのです。

 大怪我をしたのです」



「検査で異常が無かったのだから

 大丈夫だろう」



「こんな包帯グルグル巻きの姿で

 学校など行ったら笑われます」



「いや。

 包帯を巻いていなくても

 十分笑えるから安心しろ」



何それ酷い。

安心出来ない。



「変なあだ名を付けられたら

 どうするのですか?

 いじめられたら

 どうするのですか?」



「経済制裁」



は?

黒川、

お金が無いと言っていましたよね?

何処に経済制裁する金があるの?



「頭痛~い。お腹痛~い。

 とにかく休みた~い」



「お前、ラップが上手いな」



いやいや。

ラップなんて歌っていませんから。


……。


……確かに上手いな。



いやいやいやいや!



「お腹が痛いって。

 先程ジュースを

 三回おかわりしていましたよね?」



当たり前だ、白石。

昨日の夜から芋しか食ってないんだ。

それに包帯グルグル巻きのせいで

水分しか摂れないんだYO!



「お前のわがままのせいで、

 赤井君と桃が遅刻したら

 どうするんだ」



「だったらさっさと

 二人を連れて行けぇぇぃ!」



「お嬢、どうしたの?

 もしかして反抗期?」



青田ァッ!

半分……、否!

九割以上お前のせいだ!


何、優雅に

シルクのパジャマ姿で

コーヒーを飲んでいるんだ。



「お嬢。

 ボクの帽子を貸してあげるから。

 ね? 目立たないでしょ?」



いやいや、桃よ。

赤いチューリップハットなんか

被っていたら、余計目立つだろう。



「嫌だ嫌だ!

 包帯が取れるまで、

 学校なんか行きませんからね!」



「…………」



ふはは。

珍しく黒川が黙っているよ。

完全勝利!



「……。仕方がありませんね。

 こんな事に使いたくは

 なかったのですが……」



何?

何なの? 白石。



「お嬢の昨日の下着を

 校庭に置きましょう。

 名前入りで」



ファッツ?



ああッ!


昨日の下着が綺麗に洗濯されて

真空パックされている!


しかも

白石のメッセージカード付きで!



「や……、止めてください。

 お願いします」



「なら、学校へ行きますね?」



「ハイ……。

 桃、チューリップハットを

 貸してください」




私は観念して車に乗り込んだ。



「行ってらっしゃい」



青田と白石が見送る。



青田、

いつまでシルクのパジャマを

着ているの?



早く着替えて仕事しろ!



ああ。逃げたい。



セーラー服に

顔中グルグル巻きの包帯、

赤いチューリップハット。




こんな姿、

どう見たって可笑しいよ。



赤井も桃も

私と目を合わせづらいのか、

うつむいて黙ったままだ。



私は処刑台へ送られる

罪無き罪人……。



「冤罪だー! 冤罪ですよー!」



私は車の窓を開け、

外に向かって叫んだ。



「うるせー!」



即、窓を閉められる。



待って、黒川。

チューリップハットが挟まりました。




車は無情にも校内に到着した。



回りの視線が突き刺さる。



見ないでッ!

見ないでください。

見世物ではありませんよ。



私はチューリップハットを握りしめ、

さらに目深に被った。



『バリッ』



ギャッ!



チューリップハットのてっぺんが破れ、

頭半分が突き出た。



前が……、前が見えません。



「ブフッ!」



赤井、笑ってないで助けろ。



「ご……、ごきげんよう……」



あ。皆さん、

こんな私に挨拶してくださるのね。


さすが

躾の行き届いたご子息ご令嬢たち。



「皆様、ごきげんよう。

 私は陽気で愉快な

 ドジっ子ミイラです。

 ドジっ子ミーちゃんって呼んでねー。
 
 以後、よろしくー」
 


黒川。

全く腹話術になっていないから。



そんなアホみたいなセリフ、

よく真顔で言えるな。



黒川の低音ボイスのせいで、

ドジっ子ミーちゃん、

ただの怨念キャラだよ。



チューリップハットが

押しても引いても脱げないので、

頭が少し突き出た状態ですし。



「じゃあ、お嬢。頑張ってね!」



「俺達が

 しっかり恋の相手を

 見つけてくるからな」


「え?
 
 桃、赤井? 何処へ行くの?」



……そうだ。


赤井と桃は

この春から進学クラスに、

私だけ普通クラスに別れて

いたことを

すっかり忘れていたよ。



あ。

黒川、行かないで……。



一日、腹話術をお願いいたします。



「……って、

 何処へ行く、黒川ッ!」



「あー。

 今日はPTA会議があるから、

 後は自分の力で頑張れ」



え?

この人、PTAなの?


確か、

長年うちの爺ちゃんが会長を

務めていたような……。



後を継いで会長になったのかよ!



着実に

主から権力を奪っているよな、


腹黒執事。

pagetop