青田の朝は遅い。



一人でのんびり新聞を読みながら

朝食を取り、気が向いたら

庭の手入れを始める。



私が学校へ登校する日の朝に

青田に出くわす事は滅多にない。


いつもマイペース、スローライフ

である。



爺ちゃんが青田を

何要因で雇ったのか全く分からないが、

執事の中で一番優しかったので、

私は常に青田の側にいた。



青田は屋敷の玄関に、

庭で育てた花を生けるのが日課だ。

華道の師範代らしいが、

床に花粉を撒き散らし、

いつも白石に注意されている。





また

裏庭で家庭菜園もしているので、

わが家の食卓は青田印の

有機無農薬野菜を使った料理が並ぶ。



私がこの屋敷に連れて来られた頃は

苦手な野菜が沢山あったけれど、

残そうとすると

青田が鬼のような形相で

こちらを見るので

無理をして食べていた。



その様子を見た黒川は、

翌日からわざと

茹で野菜や野菜スティックで

丸ごと出してくる。


ドS黒川。



だから私は

すっかり野菜嫌いを克服し、

今では健康優良児だ。





青田は私が小さい頃から

よく遊び相手になってくれた。



「お嬢、

 この木の上から見える景色は

 格別だよ」



「木なんて登れませんよ」



「フフッ。

 手を貸すから登ってごらん」



「うわー! よく見えるー」



「あ。黒川君だ」




青田、

私を木の上に置き去りにして逃走。



「エッ……? エェ~?」



「お嬢、

 木なんか登って何をしているんだ?

 ここからパンツが丸見えだ。

 見るに耐えぬ」



黒川、木の下でご立腹。


見るに耐えないパンツなら、

見なければ良いと思います。



「何だ?

 そのパンツの柄は。犬か?」



「いえ。猫です」



「そんな事など、どうでも良い。

 早く降りて来い」



先程の質問は何だったのですか?

素直に答えなくて良かったのですか?



「……いえ。

 一人で降りられないのです」



「自分で登っているのだから

 自分で降りられるだろう。

 甘えるな。オラー!」



黒川が大木をユサユサと揺らす。



「た……、助けてー!

 ゴメンナサーイ!

 もう登りませーん!」




その後の記憶は……。




うん。

忘れよう。




やっぱり青田は青田だな。

閑話(青田とお嬢の日常)その1

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