行く手を埋め尽くす村人達に違和感を覚え、心の中で肩を竦める。僅かな風に揺れる、この地方の女性達が身に着ける独特の被り布に、アキは目を細めた。

 心に浮かぶのは、アキが毎日窓辺に置く花を喜んでくれた小さな少女。病弱で、刺繍が得意で、つたないアキの話を飽きることなく聞いてくれた少女。しかしその少女は、アキの前から去ってしまった。今のアキは、王位を得た新王ヴァルトの、腹心の一人。その王の命で、敵でも味方でもない辺境伯の娘と結婚することに、アキは何の感情も抱かなかった。この身は、ヴァルト王のもの。あの方のためなら、なんだってする。まだ王子であった頃のヴァルトを刺客から庇った時に負った脇腹の傷が痛んだように感じ、アキは馬上でぐっと背を伸ばした。ヴァルトと共に渡った異国では、病に斃れる仲間を何人も看取った。その仲間達の分まで、ヴァルト王を支えねば。アキの心にあるのは、その想いだけ。

 と。

 目の端に入った、赤と緑に、記憶が強く揺さぶられる。あの、小さな子の頭で揺れる刺繍には、確かに、見覚えがある。でも、まさか。花の刺繍が上手だった少女の、小さくも優しい嘘を思い出し、アキの心は大きく揺れた。しかしながら。ここに、あの少女が、リュリがいるとしても、今の自分は、ヴァルト王の命に従うのみ。それが、……「一緒に行こう」と口にしつつも、リュリを幸せにする自信が無かった、アキの贖罪。だから。王が定めた自身の花嫁を、アキは迷うこと無く抱き上げた。

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