簒奪するように王位に就いたヴァルト王の腹心一行を見定めるためだろう、屋敷の表門は、集まった人々でごった返していた。

「あそこ。マイラ姉様がいる場所が空いてる」

 目敏いサーラに引っ張られるようにして人々の間をすり抜ける。小さなサーラにも何とか姉が見える場所、そして集まった人々の影に隠れる場所で、リュリは何とか立ち止まった。

「マイラ姉様、大丈夫かな?」

 小さく尖らせた口から出たサーラの言葉に誘われるように、屋敷の表門前に両親と共に立っているこの家の長女マイラの方を見やる。ヴァルト王から贈られた、おそらく異国との交易品であろう、身体を包み込むほどに大きく、青白い横顔が透けて見えるほど薄い被り布をすっぽりと被ったマイラは、普段よりも小さく、リュリの目には映った。大丈夫。掛けたくなる声を、堪える。リュリには、……声を掛ける資格は、無い。

 その時。複数の馬の嘶きに、はっと顔を上げる。先頭にいた、意外に小柄な人影に、リュリの鼓動は止まった。あの、整った横顔は。最後に見たときよりも背は高く、そして頬も腕も細くなってはいるが、夜よりも深くなる視線は、……変わっていない。

「アキ」

 出掛かった声を、喉で消す。

 ここにリュリがいることを、知られてはいけない。嘘は、貫き通す。きちんと被り布を被っておいて、良かった。馬を下り、薄い被り布ごとマイラを抱き上げたヴァルト王の腹心、アキに見つからないように、歓喜する人々と白い被り布の影で、リュリは涙を拭った。

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