朝、学校の靴箱で上靴に履き替えていると、背後から声がした。



「ごきげんよう、さち子」



エビちゃんだ。



「ごきげんよう、エビちゃん」



「さち子、この風呂敷の中に何が入っているの?」



エビちゃんは私が背負っている風呂敷を触りながら言った。



「ああ。これはですね、演劇で使うパン屋の娘の衣装が入っているのですよ」



「ふーん……」


「あッ、痛ッ!
 
 上靴の中に何か入っている」



上靴を履こうとした時、足の裏がチクッとした。



「小石かな?

 あ。靴の裏に画ビョウが刺さっていました」



上靴を脱ぎ、刺さった画ビョウを外す。



「さち子、滅茶苦茶刺さっているじゃない」



エビちゃんが驚いた顔をしている。



「十個、十一個……、
 あ。もう片方の上靴にも刺さっていますね」



「何でそんなに刺さっているのよ?」



「あー……。

 昨日、演劇部のポスター貼りを手伝っていたから、その時踏んでしまったのかもしれませんね」


「その時気が付かなかったの?」


「私の足の裏は皮膚が固いのです。

 毎日スライディングや盗塁の練習をしているからかな?」


全ての画ビョウを抜き終え、上靴を履く。



「何でスライディングの練習なんかしているの?」



「エビちゃん。スライディングは狭い所に逃げ込む時に、盗塁はキッチンに置いてあるお菓子を盗み食いする時に役に立つから、おすすめですよ?」



「そんな状況になった事がないんだけど……」



そんな話をしながら、エビちゃんと教室に入った。

今日の一時間目は白石の授業か……。



教科書はテスト期間以外は大体机の中に入れておくので、屋敷に持ち帰らない。

ぎっしり詰まった机の中から化学の教科書を探す。



おー。
あったあった。



教科書が見つかると同時に授業が始まった。



「教科書十二ページを開け」



「ん……?」



教科書をパラパラ捲ると、所々落書きされていた。



何これ?
誰が落書きしたの?


…………。


滅茶苦茶面白い!


落書きは殆どの写真に施されていて、偉人達が全くの別人になっていた。



「ブッフー!」



「俺の授業で笑うとは、いい度胸だ!」



『ザシュッ!』



「キャー!」



 
落書きを見て思わず吹き出してしまった私に、チョークと白石の怒号が飛び、女子達の歓喜の声が上がった。



だって……。

ジョン・ドルトンという人の丸眼鏡が黒く塗り潰されているのですよ?

笑わずにはいられないでしょ?


駄目だ。

こんな落書きが黒川や白石に見つかったら怒られる。



幸い落書きはシャープペンシルで書かれていた。

私は笑いを堪えながら、教科書の落書きを一つ一つ消ゴムで消していった。



「フフッ」



「またお前か! ふざけるな!」



『ビシュッ!』



「キャー!」


どちらにしても、今日の反省会で怒られるのは確定だ……。


落書きを消すのを諦めて教科書を閉じようとすると、最後のページに大きく『馬鹿』と書かれていた。

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