「では、
黒川の部屋に参りましょう」
お嬢は、自分がプレゼントしたキーホルダーを白石君が持ってくれていた事が余程嬉しかったのか、少しテンションが上がっていた。
「お嬢。お前はテストで悪い点数を取る度、俺の部屋に侵入して答案を隠しているだろう?
俺の部屋を探したところで、出てくるのはお前の答案ばかりだと思うが」
「大丈夫です。
答案を隠している場所は全て把握していますので、その場所以外を捜索します」
「全て把握って……。
どれだけ俺の部屋に隠しているんだ」
「黒川君。
大掃除も兼ねて、お嬢が隠した答案用紙を徹底的に探し出してやりましょう」
いつの間にか白石君も、お嬢の『宝探し』に参加していた。
……まあ、良い。
青田君の分かりづらい暗号を解読するには、白石君がいてくれた方が心強い。
俺はビデオカメラでお嬢と白石君を撮影しながら二人の後に付いて行った。
「ええと……。
黒川のいかがわしい物は何処にありますかね?」
お嬢……。
既に己の目的を見失っていないか?
「まずはお嬢の定番の隠し場所である枕の下を探してみたらどうですか?」
「白石。
宝探しを舐めているのですか?
簡単に見つけられる場所に隠していたら、全然楽しくないじゃないですか」
いや。
ここに辿り着くまで、どれだけ時間を費やしたと思っているんだ。
青田君も、そろそろ手を抜いてくれて構わないのだが……。
お嬢は答案用紙を隠している場所以外を探し、白石君は答案用紙が隠されていそうな場所を探す。
見事な連携プレイだ。
「一枚目、発見しました」
「ギャァァー!」
「ほら、
二枚目が出てきましたよ」
「うわぁぁー!」
二人とも、うるせーな。
しばらく録画状態にしたままのビデオカメラをテーブルの上に置いて休憩していると、白石君は発見した答案用紙をビデオカメラの前に積み重ねていった。
「黒川。
やっぱりこの部屋に暗号は隠されていませんよ。
他の部屋を探しましょう」
お嬢が逃げるように部屋から出て行こうとする。
「待ってください、お嬢。
暗号の『黒い魔神が眠る場所』ということは、やはりベッド付近ですよ」
「それは無いですよ。
昨日も枕の下に答案用紙を隠したばかりなのに」
お嬢が俺の枕の下に手を入れ、ごそごそ探ると、枕の下から答案用紙が一枚出てきた。
「ほらね?」
「何が『ほらね?』だァァ!」
「ギャァァー!」
……青田君。
そろそろ疲れてきた。
今日中に宝探しは終わるのか?
「枕の下ではなく、サイドテーブルの引き出しの中はどうですか?」
白石君がベッドの側のサイドのテーブルの引き出しを開けた。
「あ……、待て。そこは……」
「ん? 日記帳?」
お嬢が引き出しの中のノートを取り出そうとしたので、すかさずそれを取り上げた。
「黒川。
黒川もポエムを書いているのですか?
見たい!
見せてください!」
お嬢が俺からノートを奪おうと手を伸ばす。
「ポエムなど書くわけないだろう」
「えー?
じゃあ、何を書いているのですか?
日記? 誰かの悪口?
……もしかして四コマ漫画とか!」
「俺の画力で漫画が描けると思っているのか?」
「画力が無い方が逆に面白かったりするものなのですよ」
「クッ……!」
「隙ありッ!」
お嬢はいつの間にか俺の背後に回り、大ジャンプを決めて俺からノートを奪った。
「あッ!
白石君、お嬢を押さえてくれ」
「お嬢からノートを奪い返すなんて絶対無理ですよ。
諦めてください、黒川君」
白石君が爽やかな笑顔を見せる。
白石君は、お嬢手製のキーホルダーを大切に保管しているのを俺とお嬢が見てしまった事を根に持っているようだ。
「黒川。
このノートに何が書かれているか、読んでも良いですか?」
「駄目だと言ってもお前は読むだろう?」
「黒川がどんなポエムを書いているか知りたい。
安心してください。
どんなに酷い暗黒ポエムでも、
絶対笑いませんから」
「ポエムではないと言っているのに……。
勝手に読め」
「では、遠慮なく」
諦めてベッドに腰を掛けた俺を見たお嬢は、近くにあった椅子に座り、ノートをめくった。
「ええと……。
『ハムスターにおやつをあげて仲良くなろう』?
『お嬢の好きな食べ物、甘いもの、辛いもの。嫌いな食べ物、酸っぱいもの』」
「声に出して読むなよ」
「『雑煮に入れる餅の数。お嬢、三個。(※食い過ぎ。一日二個までに制限)赤井君、二個。青田君、白石君、桃、一個。(※ダイエット中は餅抜き)』
『オムライスの卵。包む派、お嬢、赤井君、白石君。ふわとろ派、青田君、桃。(※桃、ダイエット中はチキンライスのみ)』……」
それからお嬢は黙ってノートをめくっていった。
「どうだ?
面白い事など何も書いていないだろう?」
俺が溜め息をつきながら言うと、お嬢はノートに視線を落としたまま、首を横に振った。
「黒川。
いつもありがとう」
「……」
お嬢も白石君も笑い飛ばすと思っていた。
お嬢の言葉に何と返事をすれば良いか分からず、しばらく沈黙が続いた。
お嬢が最後のページをめくると、次の暗号が書かれた紙が挟まっていた。
「やはり暗号はここでしたね」
白石君が静かに笑った。
『クリスマスカラーの食べ物を、一番好きな場所へ』