「白石。

 お見苦しい物をお見せして、
 ごめんなさい」



「……」






何故だ……。






何故、パンツを見られた私がパンツを見た白石に謝っているのだろう……。



世間一般では女子高生のパンチラってラッキー・ハプニングじゃないの?



パンチラじゃなくてパンツ丸出しだったけれど……。



それなら尚更ラッキーだよね?


私など、白石が扉を開け放ったまま固まったせいで、私の叫び声を聞き駆けつけてきた青田にまでパンツを見られて、立ち直れないほどの大ダメージを受けているのに……。





「白石。黒川をご覧なさい。

 私のパンツを間近で見ておきながら

 落ち着き払ったこの態度を」





黒川は私のベッドに腰を下ろして、パン屋の娘が被る三角巾を作成中だ。



「黒川。

 三角巾を作る布が余っていたのなら、

 その布でパンツ丸見え部分を

 隠せたのではないでしょうか?」



「三角巾を着用せずパンを売るのは

 衛生管理上、問題があると思ってな」


「いやいや。

 パンツ丸出しでパンを売っている方が

 問題あると思います。

 白石。とにかく私のパンツの事など、さっさと記憶から消去してください」



「お嬢の……、記憶……、消去……」





……ん?



白石の顔が、みるみる赤くなっていく。



白石、私のパンツ姿を思い出して赤面しているの?



ヤダ。ヤメテェェー!





「あ。白石君の顔に蕁麻疹が!

 白石君、大丈夫か?」




え?

蕁麻疹?



私のパンツ姿を思い出して?



失礼すぎやしませんか?





「あー。大丈夫です。

 しばらく自分の部屋で休んできます」





白石がフラリと部屋から出て行こうとする。





「白石……」





「白石君。
 それは病院へ行った方が良い。

 俺が車を運転するから、
 一緒に行こう」


黒川がベッドから立ち上がった。





「わ……、私も付いて行きます」



「いや。
 お前はここで留守番していろ」



「でも……」



「大丈夫だ。心配するな。

 青田君、お嬢の事を頼む」





黒川は私の頭をそっと撫で、

気が抜けたようになっている白石を抱えて部屋から出て行った。





「白石……」


白石は、自分で作った石鹸やヘチマ化粧水を愛用しているためか、成人男性とは思えないくらい綺麗な肌をしている。



その肌が、私のパンツ姿を見たせいでブツブツになってしまった……。



何故だー!



「お嬢。

 白石君は大丈夫だから心配しないで」





黒川と白石が部屋から出て行った後、

今度は青田が私のベッドに腰掛けた。



「でも……。

 白石は私のあられもない姿を見て

 アレルギーを起こしてしまったようです。

 恐らく私のせいで、何故だか私のせいで……。

 あまり納得していませんが、全て私のせいで!」





「お嬢、落ち着いて。

 白石君の蕁麻疹は、お嬢のせいではないから。

 ……ね?」





青田はベッドの上に置かれたパン屋の娘の衣装を手に取った。



「お嬢。何の役に決まったの?

 この穴は、尻尾か何かを付けるために開けたのかな?」



「戦火に逃げ惑うパン屋の娘の役です。

 その穴は、私が衣装を作成する時に

 失敗して開けてしまったものなので、

 役とは関係ありません」


「なるほど。

 この穴の部分は、別の布で継ぎあてすれば、

 逆に良い感じになるかもしれないね」



「青田……」





青田は私が白石の心配をしないよう、わざと話題を反らしているようだけど、その態度がますます私を不安にさせた。





「お嬢。

 赤井君がお嬢の前で急に倒れた時の事を覚えている?」



「……。

 裏庭の畑で倒れた時の事ですか?」



「そうそう」



昔、赤井とどちらが大きな大根を抜くか張り合って、青田が大事に育てていた大根をほとんど抜いてしまった。



抜き終わった後、私達は大変なことをやらかしてしまった事に気付き、赤井は青田に怒られる恐怖で気を失った。





「赤井君は昔から緊張しやすくてね。

 小さい頃は緊張しすぎて、

 よく気を失っていたよ」



……。

そう言えば赤井は、私が演劇部に入るための許可を黒川達にもらう時も緊張して震えていた。


「白石君も昔からストレスや疲れが溜まると身体中に蕁麻疹が出てね。

 でも、薬を飲んでしばらく休んでいれば良くなるから。

 だから心配しなくていいよ」



「ストレスって……。

 やっぱり私の破廉恥な姿を見てしまったせいですよね?」



「いや、違うよ。

 最近、職員会議や生徒の進路の事で忙しいと言っていたから、疲れが溜まっていたんだよ」



「進路の事……。

 恐らく私が、高校を卒業したら進学せずにアイドルになるなんて言ってしまったからですよ……」



「え? お嬢、アイドルになるの?

 それは楽しみだなー。

 お嬢がアイドルになったら、

 一番に応援するからね」


「いえ。

 この私が本気でアイドルになれるとは思っていません。

 大学に進学して勉強するのが嫌だったので、その場凌ぎの嘘をついたのです。

 その言葉が白石を苦しめているとも知らずに……」



「フフ」



「白石が病院から帰って来たら、アイドルになる夢は諦めて勉強に専念することを伝えなければ。

 あ……。しばらく私の姿は白石に見せない方が良いのかな」





青田が私の顔を見て、クスッと笑った。





「やっぱり青田も、しばらく私は白石の前に姿を現さない方が良いと思いますか?」



「いや、違うよ。

 少し昔の事を思い出してね」



「昔の事?」


「お嬢がこの屋敷に来る前……。

 皆、本当に酷くてね」



「?」



「赤井君は事あるごとに倒れるし、白石君もなかなか蕁麻疹が治らなくて、マスクと手袋が手放せなかった。

 黒川君は僕達に無関心で、ずっと自分の部屋に引きこもっていたし、桃は嘘ばかりついていたな……」



「皆、大変だったのですね……」



「お嬢がこの屋敷に来てから、

 そんな事、すっかり忘れていたよ」





青田が、普段通りの優しい笑顔を私に向ける。

青田はその頃、どんな事を考えながら生活していたのだろう。



青田の怒った顔や悲しんでいる姿を、私は見たことがない。





「……青田。

 辛い時や悲しい時は、

 この部屋で泣いていいですよ?

 絶対誰にも言いません。

 青田と私だけの秘密にしておきますから」





「フフ……。ありがとう、お嬢。

 今、泣きそうだよ」



「え?」





「嬉し泣き」





青田はそう言って、また笑顔を見せた。

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