「お嬢、起きろ」



朝、黒川が私を起こしにやって来た。



「うーん……。

 まだ六時じゃないですか……。

 もう少し眠っていたいです」





「お前……。

 早く寝ろと言ったのに、

 夜更かしをしたのか?」





夜更かしどころか、明け方まで色々考え事をしていたので、まともに寝ていない。





「とにかく早く着替えて
 朝食を食べに来い」


「うー。はいはい」





黒川が部屋から出て行くと、入れ替わりで桃が部屋に入ってきた。





「お嬢。

 ボクの服を持ってきたから、

 これに着替えて」





桃が水色のワンピースをベッドの上に置いた。



「わー、可愛い。

 でもこれ、

 絶対私に似合いませんよ」





「確かにお嬢はフリフリした洋服は

 似合わないけれど……。

 このくらいシンプルな

 ワンピースなら似合うって。

 試しに着てみてよ」



「……うん」





ワンピースに着替えた私を見て、桃が目を輝かせた。 





「わー。

 ボクが思った通り、水色が似合う」





「何だか下半身がスースーして

 落ち着きませんね」





「お嬢は肌が綺麗だから、

 顔はこのままで良いとして……。

 後はそのボサボサの頭を
 何とかしなくちゃ。

 お嬢、椅子に座って」





促されるまま椅子に座ると、桃が私の髪にブラシをかけ始めた。


「お嬢は黙っていたら
 可愛い方なんだから、
 もっと自信を持っていいと思うよ?」




「桃。それ、

 褒めているように
 聞こえませんが……」

 



「褒めてる褒めてる」





桃が私の髪に、編み込みを施していく。





「桃。あまりお洒落し過ぎたら、

 凄く張り切っているみたいで

 恥ずかしいですよ」


「大丈夫だって。

 黒川君、

 女の子のファッションには

 疎そうだから、このくらいやっても

 気付かないと思うよ?」





「うーん。そうですね……」





黒川は、ファッションに疎いというより、私に興味が無さそうだな……。





「はい、出来た。うん、完璧」





桃が手鏡を持ってきて、私に見せた。

両サイドに編み込みがきっちりと施されている。



「桃、器用だね」


「フフッ。

 さあ、朝ごはんを食べに行こう」





食堂へ向かうと、いつも起きるのが遅くて皆と別に朝食を摂る青田が、珍しく着席していた。





「おはよう、お嬢。

 今日は随分可愛らしい格好を
 しているね」





「おはようございます、青田。

 このワンピース、

 桃が貸してくれたのです」



「汚さないように

 気を付けてくださいよ?」



白石がワンピースをジロジロ見ながら、いつものように注意する。





「分かっていますよ。白石」





「お嬢、今日は何処へ行くんだ?」





「分かりません。

 私はただ黒川に付いて行くだけですから」





「そうか……」





「ところで黒川は何処ですか?」


「ところで黒川は何処ですか?」





「黒川君なら朝食を食べ終えて

 準備をしているよ。

 お嬢も早く食べて、

 黒川君の所へ行っておいで」


青田がいつもの笑顔で言った。



「うん……」

 



朝食を食べ終えて黒川の部屋へ向かい、一度大きく深呼吸をして、部屋の扉をノックした。





「黒川ー。準備できましたー」





「ああ。少し待ってくれ」



部屋の外で待っていると、扉が開き、スーツ姿の黒川が出てきた。





「黒川、

 スーツで出掛けるのですか?」





「ああ。

 お前も今日は
 ジャージじゃないんだな」



 

黒川が小さく笑った。





「今日は遠出をするから、

 まだ時間は早いけれど、そろそろ出よう」



「……うん」



黒川に付いて庭先へ出ると、白石達も庭先まで出てきて、皆に見送られた。





「お嬢、黒川君、

 行ってらっしゃい。

 気を付けてね」



「うん。行ってきます」





黒川の車に乗って、私と黒川は出発した。

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